刑法(凶器準備集合・結集罪)

凶器準備集合・結集罪(18) ~「凶器準備集合罪の『集合の個数』と『罪数』の関係」「凶器準備結集罪と凶器準備集合罪の両罪が成立する場合の罪数」「他罪との関係」を説明

 前回の記事の続きです。

 この記事では、凶器準備結集罪、凶器準備結集罪(刑法208条の2)の

  • 罪数
  • 他罪との関係

を説明します。

凶器準備集合罪の「集合の個数」と「罪数」の関係

 凶器準備集合体が形成された後、場所的移動、構成員の出入りがあっても、

  • 共同加害目的の継続性
  • 集合体の構成員の同一性・共通性
  • 準備された凶器の同一性・共通性

などを総合して、

当該集合体の同一性が保持されている

と認められ、

当初の凶器準備集合の状態が維持継続

されていれば、集合は一個であり、継続犯である凶器準備集合罪と凶器準備結集罪は一罪と評価され、2個ではなく、1個の凶器準備集合罪又は凶器準備結集罪が成立します。

 参考となる裁判例として、以下のものがあります。

東京地裁判決(昭和48年9月10日)

 集合体が機動隊の規制にあって後退したが、解散・離散したことはなく、集団性が持続しているとして、10数分、約200メートル離れた二個の集合事実を1回の構成要件的評価で足りるとし、1個の凶器準備集合罪が成立するとしました。

東京高裁判決(昭和47年10月4日)

 被告人らの結集行為によって形成された集合体が機動隊の規制にあって一旦四散し、約1 時間後にその近くに集まり、集合者に演説を行い、整列させたのは、たとえ犯行の日時場所が近接し集団の企てた目的・内容・保護法益などが同一であっても両者は独立の二罪であるとし、2個の凶器準備集合罪が成立するとしました。

 集合体が一旦解散し、再度集合するまでに約1時間の隔たりがあることから、「集合体の同一性が保持されていない」「当初の凶器準備集合の状態が維持継続していない」として、一罪ではなく、2個の凶器準備集合罪が成立すると認定されたものと考えられます。

凶器準備結集罪と凶器準備集合罪の両罪が成立する場合の罪数

 凶器準備結集罪(法定刑:3年以下の懲役)と凶器準備集合罪(法定刑:2年以下の懲役又は30万円以下の罰金)を共に行ったときは、包括して法定刑が重い凶器準備結集罪のみを構成します。

 参考となる裁判例として、以下のものがあります。

最高裁決定(昭和35年11月15日)

 凶器準備結集罪と凶器準備集合罪の2個を併合罪として起訴された事実につき、凶器準備結集罪の一罪として認定しました。

凶器準備集合罪と予備罪との関係

 凶器準備集合罪は、加害行為との関連では予備罪となるので、殺人予備罪などの予備罪とは観念的競合の関係になります。

凶器準備集合罪と内乱罪、騒乱罪等との関係

内乱罪との関係

 凶器準備集合罪は内乱罪刑法77条)に吸収され、凶器準備集合罪は成立せず、内乱罪のみが成立すると解されます。

内乱予備陰謀罪との関係

 内乱予備陰謀罪(刑法78条)との関係について、凶器準備集合罪と内乱予備陰謀罪の両罪が成立し、両罪は観念的競合の関係になると解されます。

多衆不解散罪との関係

 多衆不解散罪刑法107条)との関係について、凶器準備集合罪と多衆不解散罪の両罪が成立し、両罪は観念的競合の関係になると解されます。

騒乱罪と関係

 騒乱罪刑法106条)との関係について、凶器準備集合罪と騒乱罪とは、原則として併合罪の関係になると解されます。

凶器準備集合罪と「集合の目的となる加害の罪」との関係

 凶器準備集合罪が目的とした加害に発展した場合、学説では「牽連犯説」と「併合罪説」がありますが、判例は「併合罪説」を採っています。

 判例は「併合罪説」を採る理由は、凶器準備集合罪と加害の実行との罪質の相違を重視するためです。

 この点を判示したのが以下の判例です。

 以下の判例は、いずれも、凶器準備集合と暴力行為等処罰に関する法律違反(1条違反)を併合罪としました。

最高裁決定(昭和38年10月31日)

 裁判所は、

  • 原判決認定の事実関係のもとにおいては、被告人の凶器準備集合の所為と暴力行為等処罰に関する法律違反の所為とを併合罪とした原判決の判断は相当である
  • 凶器準備集合罪は個人の生命、身体、財産をも保護法益としているものであり、また事実関係としては暴力行為等処罰に関する法律第1条違反の行為の予備的段階たる面もあるが、前者は共同加害行為の前段階において二人以上の者が凶器を準備しまたはその準備あることを知つて集合することを禁圧するためとくに規定が設けられたものであって、公共的な社会生活の平穏をも保護法益とするものであるから、前者が発展して後者の犯罪がなされた場合においても、前者は後者に吸収されることなく各個に犯罪が成立し、両罪は併合罪の関係にあるものとするのが相当である

と判示しました。

最高裁決定(昭和43年7月16日)

 裁判所は、

  • 凶器準備集合の所為と、その集合の直後、集合場所付近において、甲の身体を手拳で殴打し、足蹴にするなどし、かつ、 甲に対し、「横着だぞ」等と怒号した暴力行為等処罰に関する法律1条違反の所為とは、併合罪の関係にあると解するのが相当である

と判示しました。

最高裁決定(昭和48年2月8日)

 午後11時ころから翌午前2時30分頃までの間の凶器を準備して集合し、午後11時頃、数人共同して凶器を示し、かつ、多衆の威力を示して暴行脅迫を加えた事案です。

 裁判所は、

  • 本罪が個人の生命、身体または財産ばかりでなく、公共的な社会生活の平穏をも保護法益とするものであることにかんがみれば、被告人の本件凶器準備集合の所為は、暴力行為等処罰に関する法律違反の所為に対する単なる手段とのみ評価することはできず、両者は通常手段結果の関係にあるというをえないものであるから、牽連犯ではなく、併合罪と解すぺきである

と判示しました。

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