前回の記事の続きです。
この記事では、身の代金拐取予備罪(刑法228条の3)を説明します。
身の代金拐取予備罪とは?
身の代金拐取予備罪(刑法228条の3)は、
身の代金目的略取・誘拐・拐取罪(刑法225条の2第1項)の予備を処罰すること
を定めた規定です。
身の代金拐取予備罪は、身の代金目的略取・誘拐・拐取罪という危険な犯罪をできるだけ早い段階で検挙し、処罰できるようにし、重大な結果の発生を未然に防止しようという趣旨で設けられたものです。
目的犯
身の代金拐取予備罪は、
「刑法225条の2第1項の罪(身の代金目的略取・誘拐・拐取罪)を犯す目的」
で行うことを要する目的犯です。
なので、身の代金拐取予備罪が成立するには、上記の目的意思で身の代金目的略取・誘拐・拐取罪の予備をすることを要します。
身の代金目的略取・誘拐・拐取罪を行おうとする目的意思の存在は、
- 略取・誘拐の対象となる被害者又は身の代金要求の相手方がどの程度まで特定しているか
- 略取・誘拐の準備行為がどの程度まで進んでいるか
- 共犯者の間でどのような合意が成立しているか
などという事情を総合考慮して認定されます。
「いつかタイミングがあれば誰かを誘拐しよう」という程度の意思では目的意思があるとはいえません。
「予備」とは?
「予備」とは、
身の代金目的略取・誘拐・拐取罪を実現するための準備行為で、いまだ犯罪の着手に至らないもの
をいいます。
予備行為として、例えば、
- 犯行場所又は被害者に関する情報の探知収集
- 犯行予定場所へ向かっての出発
- 接近行為
- 略取の用に供する凶器、麻薬等の準備
- 略取・誘拐された者を運搬するための自動車等の準備
- 略取・誘拐された者を蔵匿するための場所の確保
などが挙げあれます。
「実行に着手する前に自首した者は、その刑を減軽し、又は免除する」とは?
身の代金拐取予備罪の条文(刑法228条の3)のただし書は、
「実行に着手する前に自首した者は、その刑を減軽し、又は免除する」
と規定します。
本条ただし書は、自首を奨励し、実行の段階に進むことを防止しようという政策的考慮に基づく規定です。
「実行に着手する前に」という時期的限定を置いたのは、予備の段階で共犯者が共犯関係から離脱した場合、離脱者については他の共犯者が実行に着手する前に自首しなければ本条ただし書の適用がないことを明らかにしたものです。
本条ただし書は、刑法42条の自首等の特例と解すべきであるとされ、「捜査機関に発覚」した後であっても、実行の着手前であれば刑の減軽又は免除が可能です。
刑の減軽、免除の考え方
身の代金拐取予備罪(刑法228条の3)の法定刑は、「2年以下の懲役」です。
実行の着手前に自首した者については、その刑が減軽又は免除されます。
刑の減軽方法は、刑法68条の規定があります。
「2年以下の懲役」が軽減されると、刑法68条3号により、長期の2分の1を減ずることになるので、「1年以下の懲役」となります。
刑の免除は、判決で有罪が言い渡されますが、刑罰は付されない場合をいいます。
なので、刑を免除する判決が言い渡されると、懲役の実刑で刑務所に入ることはなく、また、執行猶予の前科が付くこともありません。