刑法(被略取者引渡し等の罪)

被略取者引渡し等の罪(8) ~刑法227条4項後段の罪「収受者身の代金取得罪、収受者身の代金要求罪とは?」を説明

 前回の記事の続きです。

 この記事では、刑法227条の罪のうち、第4項後段の

  • 収受者身の代金取得罪
  • 収受者身の代金要求罪

を説明します。

 この記事では、上記各罪を「本罪」といって説明します。

収受者身の代金取得罪、収受者身の代金要求罪とは?

 本罪は、刑法227条第4項後段に規定があり、

前段 第225条の2第1項(身の代金目的略取等)の目的で、略取され又は誘拐された者を収受した者は、2年以上の有期懲役に処する

後段 略取され又は誘拐された者を収受した者が近親者その他略取され又は誘拐された者の安否を憂慮する者の憂慮に乗じて、その財物を交付させ、又はこれを要求する行為をしたときも、同様とする(2年以上の有期懲役に処する)

と規定されます。

 本罪は、

略取・誘拐された者を収受した者が、身の代金を交付させ又は要求する行為を処罰するもの

です。

主体(犯人)

1⃣ 本罪の主体(犯人)は、

略取・誘拐された者を収受した者

です。

2⃣ 「収受」とは、

有償・無償を問わず、略取・誘拐され又は売買された者の交付を受けて自己の実力支配下に置くこと

をいいます。

 略取・誘拐者から、略取・誘拐され又は売買された者を有償で取得すれば、人身売買罪刑法226条の2)が成立することになります。

 略取・誘拐者から、略取・誘拐され又は売買された者を直接収受する場合のほか、収受者から更に収受する場合も「収受」に含みます。

3⃣ 身の代金目的で略取・誘拐された者を収受した者(第225条の2第1項)のみならず

も主体になり得ます。

 それ自体では罪とならない収受行為をした者も含むかどうかについては肯定説と否定説とに分かれています。

4⃣ 本罪の主体(犯人)に、略取・誘拐犯人を幇助する目的で略取・誘拐された者を引き渡し、輸送し、蔵匿し、又は隠避させた者(刑法227条第1項・第2項)を含まないことは、文言上明らかです。

 このような者が本犯の身の代金要求行為に加担すれば、拐取者身の代金要求罪刑法225条の2第2項)の共犯となります。

 また、本犯と独立して身の代金を要求した場合には、営利略取等幇助目的被略取者等引渡し等罪刑法227条第1項)又は身の代金拐取幇助目的被略取者等引渡し等罪刑法227条第2項)と恐喝罪刑法249条)との併合罪になると考えられます。

5⃣ 本罪は身分犯と解されています。

客体(被害者)

 客体(被害者)は、

  • 近親者その他略取・誘拐された者の安否を憂慮する者とみる見解
  • 近親者その他略取・誘拐された者の安否を憂慮する者の財物とみる見解
  • その両方とみる見解

に分かれています。

※ 本罪の刑法227条第4項後段の条文中にある「近親者その他略取され又は誘拐された者の安否を憂慮する者」及び「その財物」の意味については拐取者身の代金取得・要求罪(2)の記事参照

本罪の行為

 本罪の行為は、

近親者その他略取・誘拐された者の安否を憂慮する者の憂慮に乗じて、その財物を交付させ、又はこれを要求すること

です。

※「憂慮に乗じて」「交付させ」及び「要求する行為をし」の意味については拐取者身の代金取得・要求罪(3)の記事参照

共犯(身分犯)

 本罪は身分犯と解されるので、「略取・誘拐された者の収受者でない者」が本罪の行為に加担すれば、その者に対し、刑法65条1項(身分犯の共犯)が適用されます。

既遂時期

 本罪は、

財物を交付させた時点又は要求の意思表示を発信した時点

既遂となります。

 もっとも、要求の意思表示が相手方に到達することを要するという立場からは、到達の時点で本罪の既遂を認めることとなります。

未遂規定

 本罪の未遂を処罰する規定はありません(刑法228条)。

 本罪は、財物を交付させる行為だけでなく、財物を要求する行為も処罰するものなので、未遂罪を設ける必要がないためです。

罪数、他罪との関係

 本罪と

  1. 営利略取等幇助目的被略取者等引渡し等罪刑法227条第1項
  2. 身の代金拐取幇助目的被略取者等引渡し罪等刑法227条第2項
  3. 営利被略取者等引渡し罪等刑法227条第3項
  4. 身の代金被拐取者収受罪刑法227条第4項前段

との関係については、

があります。

公訴提起前に被害者を解放した場合は刑が減軽される

 本罪は、刑法228条の2(解放による刑の減軽)の適用があり、公訴提起前に被害者を解放した場合は、必ず刑が減軽されます(詳しい説明は前の記事参照)。

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