刑法(恐喝罪)

恐喝罪(1) ~「恐喝罪とは?」「暴行も恐喝の手段になる」「恐喝罪と、詐欺罪・窃盗罪・強盗罪・強要罪との差異」「恐喝罪の客体」を判例で解説~

恐喝罪とは?

 恐喝罪(刑法249条)は、

人を恐喝して、財物又は財産上の利益を交付させる罪

です。

 そして、恐喝とは、

財物その他の財産上の利益を供与させる手段として行われる脅迫又は暴行で、相手方の反抗を抑圧しない程度のもの

をいいます。

 この点について以下の判例があります。

最高裁判決(昭和24年2月8日)

  • 他人に暴行又は脅迫を加えて財物を奪取した場合に、それが恐喝罪となるか強盗罪となるかは、その暴行又は脅迫が、社会通念上一般に被害者の反抗を抑圧するに足る程度のものであるかどうかという客観的基準によって決せられるのであって、具体的事案の被害者の主観を基準としてその被害者の反抗を抑圧する程度であったかどうかということによって決せられるものではない
  • 被告人ら3名が、被害者を脅迫し、同人の差出した現金200円を強取し、更に財布を取った事実を認定しているのであるから、右の脅迫は社会通念上被害者の反抗を抑圧するに足る程度のものであることは明かである
  • 従って右認定事実は強盗罪に該当する

と判示し、脅迫・暴行が「相手方の反抗を抑圧しない程度のもの」であれば恐喝罪が成立し、「相手方の反抗を抑圧するに足る程度のもの」であれば強盗罪が成立するとしました。

暴行も恐喝の手段になる

 暴行も恐喝の手段になることについて判例を示して説明します。

最高裁決定(昭和33年3月6日)

 この判例は、被告人が「俺の女をとったろう」と申し向けて、相手の胸ぐらをつかみ、前後にゆさぶり、更に平手で相手の顔面を殴ってから、「1万円をもらいたい、それをくれなければ馬でもひいて行ってしまう」などと申し向けて、金品を喝取した事案です。

 上告趣意で弁護人が、

  • 大審院判決(昭和5年3月10日)は、「恐喝罪は単に脅迫をもってその手段となすに過ぎずして、暴行はこれが手段たるを得ざるもの」と判示しているのに、この大審院の判例と相反して、暴行を手段とした恐喝罪の成立を認定した第一審判決を是認した原判決破棄を免れない

と主張したのに対し、裁判官は、上告趣意は原審で主張、判断のない第一審判決の判例違反をいうもので、原判決に対する攻撃とは認められないから、上告理由として不適法であるとしながらも、

  • 恐喝罪における害悪告知の方法には制限がなく、言語によると文書によると、動作によるとを問わないものであるから、第一審判決判示のごとく、被告人が被害者に判示暴行を加え、更に判示のごとく申向けて、同人をして、もしその要求に応じないときは、更に暴行等いかなる危害を加えるかもしれないと畏怖せしめたような場合には、暴行が害悪通知の方法となるものであること論を待たない

と説明して、暴行も動作による害悪通知の方法であると判示しました。

 この判例は、害悪通知の方法という文言を使用してはいますが、「害悪通知の方法には制限がなく、言語によると文書によると、動作によるとを問わない」と判示しているので、一般に暴行も恐喝の手段となり得ることを示しました。

 現在では、暴行が恐喝罪の手段となることは、判例上で確立した考え方になっています。

 なので、恐喝とは、「脅迫又は暴行によって人を畏怖させること」と定義されるのです。

恐喝罪と、詐欺罪・窃盗罪・強盗罪・強要罪との差異

 恐喝罪は、被害者の意思に基づいて財物を取得する点で、詐欺罪刑法246条)と同じです。

 一方で、恐喝罪は、被害者の意思に反して財物を取得する点で、窃盗罪刑法235条)や強盗罪刑法236条)と異なります。

 恐喝罪は、恐喝の結果、相手方が畏怖し、任意に、財物又は利益の処分をし、犯人が財物又は不法な利益を得るという因果関係が必要になります。

 この点、詐欺罪が、人を欺くことの結果、相手方が錯誤に陥り、任意に、財物又は利益の処分をし、犯人が財物又は不法な利益を得るという因果の関係が必要であるのと類似します。

 つまり、瑕疵ある意思に基づく任意の処分行為を媒介とする点で、詐欺罪と共通の面があります。

 ただ、詐欺罪が「人を欺くこと」を手段とするのに対し、恐喝罪は「恐喝」を手段とする点が異なります。

 恐喝罪の手段としての暴行・脅迫は強盗罪と類似していますが、恐喝罪は、瑕疵ある意思に基づくものの、あくまで相手方の任意の処分行為を媒介として財物又は利益を得るのに対し、強盗罪は相手方の意思に反して財物又は利益を得るものです。

 なので、その相違は、強盗罪の暴行・脅迫が相手方の反抗を抑圧するに足りる程度のものであるのに対し、恐喝罪の暴行・脅迫が相手方の反抗を抑圧するに足りない程度のものであるという点にあります。

 したがって、「意思の自由」を害して「財産」を侵害する点では、詐欺罪と共通性を持ち、「身体の安全」と「財産」を侵害する点では強盗罪と共通性を持つといえます。

 なお、恐喝罪は、手段として暴行又は脅迫を用いて人の意思決定の自由を侵害する点で強要罪刑法223条)と類似していますが、その侵害によって恐喝罪は財物又は利益を提供させるのに対し、強要罪は非財産的行為を行わせるものである点で区別されます。

恐喝罪の客体

恐喝罪1項の客体

恐喝罪(刑法249条)の1項の財物恐喝罪の客体(対象)は、

他人の占有する他人の財物

です。

 財物には、不動産も含まれ、恐喝罪の客体になります。

 電気も財物とみなされ、恐喝罪の客体になります(刑法245条刑法251条)。

 自己(犯人自身)の財物であっても、他人の占有に属しているか、又は公務所の命によって他人が看守しているものは、他人の財物とみなされ(刑法242条刑法251条)、恐喝罪の客体になります。

 盗品も財物に含まれ、恐喝罪の客体になります。

 最高裁判決(昭和24年2月8日)において、

  • 本件において被害者Aの持っていた綿糸は盗品であるから、Aがそれについて正当な権利を有しないことは明らかである
  • しかし、正当の権利を有しない者の所持であっても、その所持は所持として法律上の保護を受けるのであって、例えば、窃取した物だからそれを強取しても処罰に値しないとはいえないのである
  • 恐喝罪についても同様であって、贓物(盗品等)を所持する者に対し、恐喝の手段を用いてその賊物を交付させた場合には、やはり恐喝罪となる

と判示し、盗品も恐喝罪の客体になるとしました。

 所有・所持が禁止されている禁制品も恐喝罪の客体になります。

 最高裁判決(昭和25年4月11日)において、禁制品である元軍用アルコールの財物性を認めています。

 裁判官は、

  • 法律上その所持を禁ぜられている場合でも、現実にこれを所持している事実がある以上、社会の法的秩序を維持する必要からして、物の所持という事実上の状態それ自体が保護せられ、みだりに不正の手段によってこれを侵すことを許さぬものである

と判示し、禁制品も恐喝罪などの財産罪の客体になるとしました。

 禁制品については、法的手続でとりあげることができるという意味で違法なのであって、法的手続によらない第三者からの侵害に対しては保護されるべきという考え方がとられます。

恐喝罪2項の客体

 恐喝罪(刑法249条)の2項の利益恐喝罪の客体は、2項強盗(刑法236条2項)と2項詐欺(刑法246条2項)における財産上の不法の利益と同じです。

 財産上の利益(財産上の不法の利益)とは、積極財産の増加であると、消極財産の減少であると、永久的利益であると、一時的利益であるとを問わず、また利益の種類・態様のいかんを区別せずに、広く財産上の利益をいいます。

 この点については、以下の判例で判示しています。

大審院判決(明治45年4月22日)

 この判例で、裁判官は、

  • 恐喝によりて得たる財産上の利益が、消極的にして、しかも一時的にとどまり、永久的にこれを保持するわず
  • また、積極的に利得するところなしとするも、恐喝罪の成立を妨げるものにあらず

と判示しました。

 不法原因給付(ex 殺人を依頼した対価など)に関する財産上の利益も恐喝罪の客体になります。

 なので、不法原因給付の返還や、不法原因給付の対価の請求を拒絶したときにも、恐喝罪(2項の利得恐喝罪)が成立します。

 この点について、以下の判例があります。

東京高裁判決(昭和38年3月7日)

 人を恐喝して、わいせつ写真代金の返還請求を拒絶した事案で、裁判官は、

 まず、被告人の弁護人は、

  • エロ写真売買のため、被告人に1000円を交付したものとすれば、それは、とりもなおさず「不法の原因のための給付をなしたもの」に該当し、Kとしては、その返還を請求し得ないものであるから、Kとしては損害を受けるべき財産上の利益は、はじめより存在せず、したがって、原判決が本件を恐喝と認定したのは違法である

と主張しました。

 この主張に対し、裁判官は、

  • 被告人において、Kに対し、わいせつ写真一組を600円で売ると称して、Kより千円札1枚を受け取り、被告人に単なるグラビア印刷のヌード写真を交付したものであって、Kにおいて交付した1000円が全額わいせつ写真の対価として支払われたものとは言い難いけれども、仮に1000円がわいせつ写真の代金として支払われたものとしても、その不法の原因は、受益者たる被告人についてのみ存在し、買受人たるKには存在しないことは明らかなところでもあるから、Kとしては、もとよりその給付したものの返還請求権を失わないものといわなければならない

と判示し、不法行為に基因する対価についても、被害金として恐喝罪の対象になるとしました。

名古屋高裁判決(昭和25年7月17日)

 売春の対価について、恐喝罪の対象になるとしました。

 まず、被告人の弁護人は、

  • 本件の場合、恐喝罪成立を肯定するのは、売淫なる公序良俗に反する行為を保護することになって不当だ

と主張しました。

 この主張に対し、裁判官は、

  • 民事上、売淫の対価の請求を容認することは公序良俗に反する行為を保護するものであって不当なことは明らかであるが、刑事責任としては、被害者の保護ないし救済はこれを目的とせず、犯人の悪性ないし道徳的責任の追及を目的として、そのために被害者をある程度に保護する結果を生じたとしても、それは単に反射的作用に過ぎず、その反射的作用によって生ずる害よりも、その犯人に対する処罰が社会の秩序を維持する上により一層重要であると考えられる点において、法の保護を受け得ない経済的利益についても、財産犯の成立を肯定せざるを得ないのである
  • 財産犯の判示については、その被害の対象、すなわち財産ないし財産上の利益を確定明示するをもって足り、必ずしもその被害額を明示する必要はないのである
  • 売淫の対価の如きは客観的にその数額を算出し難く、結局その当事者間の協定なり、慣行的に支払われる価格によるほかないのであるが、本件程度の宿泊遊興の対象としては、本件8000円くらいが支払われることが疑い得られないのであるから、原審が本件の宿泊遊興の利益を8000円と評価したことは不当でないとせねばならない

と判示し、不法原因給付の対価(売春の対価)に対する恐喝罪の成立を認めました。

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