刑法(逃走の罪)

被拘禁者奪取罪(6)~「罪数の考え方」「本罪と①逃走援助罪、②加重逃走罪、③公務執行妨害罪との関係」を説明

 前回の記事の続きです。

被拘禁者奪取罪の罪数の考え方

 被拘禁者奪取罪(刑法99条)の罪数の考え方について、

1個の奪取行為により数名の被拘禁者を奪取した場合については観念的競合となる

と解されています。

被拘禁者奪取罪と他罪との関係

逃走援助罪との関係

 逃走させる目的で奪取したときは、被拘禁者奪取罪と逃走援助罪(刑法100条)との観念的競合となると考えられています。

 例えば、被拘禁者を逃走させる目的で暴行・脅迫を加え被拘禁者を奪取しようとしたが、奪取するに至らなかった場合は、被拘禁者奪取未遂罪と逃走援助罪(2項の暴行・脅迫による逃走援助)の既遂との観念的競合となります。

 なお、この点に関し、異なる見解もあり、

  • 少なくとも逃走援助罪(1項の逃走援助)は、被拘禁者奪取罪に吸収されるとする見解
  • 逃走援助罪(2項の暴行・脅迫による逃走援助)は、被拘禁者奪取罪に吸収されるとする見解

もあります。

被拘禁者奪取罪、逃走援助罪、加重逃走罪との関係

 加重逃走罪刑法98条)の主体となる被拘禁者Aと外部の者Bが共謀して、損壊・暴行・脅迫の行為を行って逃走した場合、被拘禁者Aには加重逃走罪の共同正犯が成立し得えます。

 外部の者Bに対しては、

の罪数関係が問題となります。

 まず、被拘禁者奪取罪と逃走援助罪の関係については、

逃走援助罪と被拘禁者奪取罪は観念的競合の関係に立つ

と解されています。

 次に、被拘禁者奪取罪と加重逃走罪の罪数関係については、見解が分かれており、

  1. 両罪の保護法益は共通であり、被拘禁者奪取罪の方が悪質であると解すれば、被拘禁者奪取罪が成立する場合には加重逃走罪の共同正犯は吸収されるとも考える見解
  2. 加重逃走罪の実行行為は逃走者側の行為であるのに対し、被拘禁者奪取罪の実行行為は奪取者側の行為であること、両罪の法定刑は同一であることにかんがみ、 これらを観念的競合とすると考える見解

とがあります。

 この点に関する以下の裁判例があります。

名古屋地裁判決(平成10年6月18日)

 窃盗被告事件の被告人として代用監獄である警察署留置場に勾留されていたAと、その妻Bが、通謀してAの逃走を企て、Bにおいて催涙スプレー、逃走用のレンタカーを準備した上、同警察署取調室における警察官Xによる甲の余罪取調べの際、同室に赴き、Xに対し催涙スプレーを噴射し、XがひるんだすきにA、B両名で同室から脱出して逃走した(Aにおいて暴行・脅迫等は行っていない)という事案で、Aに対して加重逃走罪の共同正犯の成立を認めました。

 Bに対しては、被拘禁者奪取罪が成立し、加重逃走罪の共同正犯は、被拘禁者奪取罪と法条競合になって成立しないとしました。

公務執行妨害罪との関係

 公務員に対し暴行・脅迫を加えて被拘禁者奪取罪を犯したときは、被拘禁者奪取罪と公務執行妨害罪刑法95条1項)との観念的競合になります。

 異なる見解として、被拘禁者奪取罪は暴行・脅迫を用いる場合も予定しているとして、公務執行妨害罪は成立せず、被拘禁者奪取罪のみ成立するとする見解があります。

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