刑法(総論)

承継的共同正犯とは? ~成立要件、責任の範囲、承継的従犯を判例などで解説~

 前回の記事の続きです。

承継的共同正犯とは?

 承継的共同正犯とは

ある人(犯人A)が犯罪行為に着手し、その犯罪行為が終わっていない段階で、あとからやって来た人(犯人B)が、犯人Aと共謀し、残りの犯罪行為をAとBの両方で実行する場合

の犯罪形態をいいます。

 たとえば、

犯人Aが、被害者Cを殺すつもりで殴っている途中に、あとからやって来た犯人Bが「俺も一緒に被害者Cを殺す」という意思を示し、被害者Cを、犯人AとBが共同で殺した…

という場合、Bの行為は、承継的共同正犯となり、犯人AとBは、殺人罪の共同正犯(共犯)で処罰されます。

 承継的共同正犯は、後から犯行に加わった後行者が、

  • 先行者と共謀し(意志の連絡を行い ※明示・暗示を問わない)
  • 先行者の行為・結果を認識・容認し、利用した上で、事後の行為を行った

場合に成立します。

後行者が責任を負う範囲

 承継的共同正犯において、あとから犯行に加わった後行者は、共犯者として、どの範囲までの責任を負うのかが問題になります。

 責任を負う範囲のパターンとしては、

  • 犯罪行為全部の責任を負うことになる
  • 自分が犯罪に加わった以降のみの責任を負うことになる

の2通りが考えられます。

 結論としては、「犯罪行為全部の責任を負うことになる」か、それとも「自分が犯罪に加わった以降のみ責任を負うことになる」かは、ケースバイケースとなります。

 どちらの結論になるかは、個別の事案ごとに裁判所が決めるので、理解を深めるには、判例を見て考えることになります。

「犯罪行為全部の責任を負うことになる」パターンの判例

大阪高等裁判所 判決(昭和45年10月27日)

事件の内容

 犯人Aが殺意をもって被害者の首を包丁で突き刺した後、後から犯行に加わった犯人Bが被害者に暴行を加えた。

 犯人Aの行為を主たる要因として被害者は死亡した(殺人罪の事案)。

判決の内容

 裁判官は、

  • 『殺人罪のような単純一罪たる犯罪については、原則として、共謀成立の前に行われた先行行為者による実行をも含め、結果の実現に向けられた各行為者のすべての実行行為につき、行為者の全員が共同正犯の責任を負うべき』

と述べ、犯人AとBに殺人罪の共同正犯が成立するとしました。

 ただし、この判決では、同様の事案でも、承継的共同正犯が成立しない場合の要件を以下のとおり示しています。

  1. 実行の着手から結果の実現までに多くの時間を要する場合
  2. 先行行為者における実行の着手と後行行為者の実行の介入までの時間がかけ離れている場合
  3. 後行行為者が先行行為者の行った実行の内容に関知せず、これを利用して自ら実行に移る意思が明確ではなかったような場合

は、後行行為者までが、犯罪の全責任(共同正犯の責任)を負うものではないという内容の話をしています。

 承継的共同正犯において、犯罪行為全部の責任を負うか、それとも自分がやった分だけの責任を負うかは、上記①~③のような状況があるかどうかによって変わってくるといえます。

「自分が犯罪に加わった以降のみ責任を負うことになる」パターンの判例

最高裁判所 判決(平成24年11月6日)

事件の内容

 他の者が被害者に暴行を加えて傷害を負わせた後に,被告人Aが共謀して傷害行為に加担した上,さらに暴行を加え、被害者の傷害を重症化させた事案

裁判の内容

 裁判官は、

  • Aは、共謀加担前に他の者がすでに生じさせていた傷害結果については、Aの行為と因果関係を有しないから、Aが傷害罪の共同正犯としての責任を負うことはない
  • Aは、共謀加担後の被害者の傷害の発生に寄与したことについてのみ、傷害罪の共同正犯の責任を負う
  • Aにおいて、被害者が、他の者からの暴行を受けて負傷し、逃亡や抵抗が困難になっている状態をさらに利用して暴行に及んだとしても、それは、Aが共謀加担後にさらに暴行を行った動機や契機にすぎず、共謀加担前の傷害結果について刑事責任を問いうる理由とはいえない

と判示しました。

まとめ

 上記2つの判例があるように、「犯罪行為全部の責任を負うことになる」か、それとも「自分が犯罪に加わった以降のみ責任を負うことになる」かは、ケースバイケースなのです。

【捕捉】承継的従犯

 この記事の最初に、承継的共同正犯は、後から犯行に加わった後行者が、

  1. 先行者と共謀し(意志の連絡を行い ※明示・暗示を問わない)
  2. 先行者の行為・結果を認識・容認し、利用した上で、事後の行為を行った

場合に成立するという話をしました。

 後から犯行に加わっても、①の「先行者と共謀し」という要件がなければ、承継的共同正犯は成立せず、この場合、

 承継的従犯

が成立します。

 承継的従犯とは、

先行者が犯罪行為の一部を終了した後、後行者の共同実行の意思ではなく、犯罪行為に加担する意思で犯行を行った場合

に成立する犯罪形態です。

 たとえば、犯人Aが、被害者Cを殺すつもりで殴っている途中に、あとからやって来た犯人Bが「俺も一緒に被害者Cを殺す」という意思を示さず犯人Aの犯罪行為に加担する意志で、被害者Cを殺した場合は、犯人AとBとの間に共同正犯(共犯)は成立しません。

 この場合、承継的共同正犯は成立せず、承継的従犯が成立し、犯人Aに殺人罪の単独犯が、犯人Bにも殺人罪の単独犯がそれぞれ成立することになります。 

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