幇助犯とは?
幇助犯とは、
正犯(犯罪の実行者)を手助けした者
をいいます(刑法62条1項)。
幇助とは、正犯(犯罪の実行者)を手助けし、より簡単に犯罪を実行できるようにすることです。
幇助犯の成立要件
幇助犯が成立するためには、
- 幇助の意思をもって、人を幇助すること
- 幇助された者が犯罪を実行すること
の2点が必要になります。
「幇助の意思」について
幇助の意思があるといえるには、
- 犯罪実行者の犯罪の実行を認識すること
- 自分の幇助行為が、犯罪実行者の犯罪の実行を容易にさせることを認識・容認すること
が必要になります。
「幇助すること」について
幇助行為があったいえるためには、
幇助行為が、犯罪実行者の犯罪の行為を、物理的・心理的に容易にし、促進したと認められれば足りる
とされています。
幇助の方法
幇助の方法は、
- モノの援助
- 精神的援助
の2つがあります。
援助の方法に制限はありません。
モノの援助
たとえば、犯罪実行者に対し、
- 凶器を与える
- お金を与える
- 犯行がうまく行くように見張りをする
などがモノの援助にあたります。
精神的援助
たとえば、犯罪実行者に対し、
- 犯行がうまくいくように助言する
- 勇気づけて背中をおす
などが精神的援助にあたります。
精神的援助による幇助を、精神的幇助といいます。
精神的幇助は、
犯罪を決意している人に対し、犯罪の決意を強める
ものをいいます。
ちなみに、そもそも犯罪を決意していない人に対し、助言するなどし、犯罪の決意を生じさせた場合は、幇助犯ではなく、教唆犯が成立します。
不作為による幇助
不作為による幇助も成立します。
不作為犯
まず、不作為犯について説明します。
何もしないことによって犯罪を実現することを不作為犯といいます。
たとえば、夫が子供に暴力を振るっているのに、妻がそれを止めようとせず、ただ見ていただけで何もしなかった場合です。
この場合、夫に暴行罪が成立するのはもちろんですが、ただ見ていただけの妻には暴行罪の幇助犯が成立します。
不作為による幇助
それでは、不作為による幇助について説明します。
不作為による幇助とは、
正犯(犯罪の実行者)の犯罪の実行を阻止するべき法的作為義務のある者が、その義務に違反して、故意に阻止しないことにより、正犯の犯罪行為を容易にする犯罪態様
をいいます。
不作為による幇助の判例
不作為による幇助の判例を紹介します。
事件の内容
被告人(女性)には、元夫のとの間にできた子供がいた。
被告人には、交際相手の男がいた。
被告人は、交際相手の男が、自分の子供に暴力を振るうのをそばで見ており、その暴力を止める義務があったのに、何もしなかった。
自分の子供は、交際相手の男の暴力で死亡した。
判決の内容
裁判官は、
- 被告人には、交際相手の男が、暴行に及ぶことを防止する強度の作為義務があった
- 被告人が、交際相手の男が暴行を開始した後、何らの制止措置をとらなかったことは,交際相手の男の暴行を容易にさせたものというべきである
- よって,被告人が何もしなかったことは、交際相手の男の暴行を幇助したものと評価することができる
と判示し、被告人に対して、不作為による傷害致死罪の幇助の成立を認めました。
不作為による幇助が成立するポイントは、
犯罪の結果発生を阻止するべき法的作為義務があるのに、何もしなかった
ことにあります。
幇助の意思の連絡
幇助犯の成立にあたり、幇助者と幇助される者との間に、「幇助しますよ」「幇助されますよ」といった意思の連絡がある必要はありません。
幇助者が、一方的に「幇助しよう」という意思を持っていれば、相手が幇助されていることに気づいていなくても、幇助犯が成立します。
たとえば、Aさんが、たまたま友人Bが万引きしようとしているのを目撃し、友人Bの万引きがうまく行くように、勝手に周囲の見張りを行ったとします。
このとき、Aさんには、窃盗罪の幇助が成立することになります。
幇助犯は、犯罪実行者の犯行を容易にしたこと自体に犯罪性があるのです。
なので、犯罪性の認定にあたって、幇助者と幇助される者との間に意志の連絡があったかどうかは関係がないという考え方がとられます。
幇助犯の刑の重さ
幇助犯の刑の重さは、正犯(犯罪実行者)の刑よりも軽くなります(刑法63条、62条)。
どのくらい刑が減軽されるかは、刑法68条に規定があります。
たとえば、刑法68条の3に「有期の懲役又は禁錮を減軽するときは、その長期及び短期の2分の1を減ずる」とあります。
これを窃盗罪にあてはめて考えます。
窃盗罪の刑の重さは、10年以下の懲役です。
窃盗罪の幇助の場合は、懲役10年の2分の1の刑の重さになるので、5年以下の懲役となります。
拘留または科料の罪に対する幇助者
拘留または科料の罪に対する幇助者は、‶ 特別の規定 ″ がなければ幇助犯で処罰されません(刑法64条)。
‶ 特別の規定 ″とは、たとえば、軽犯罪法3条が該当します。
軽犯罪法3条は、「第1条の罪を教唆し、又は幇助した者は、正犯に準ずる」と規定しています。
軽犯罪法に違反する罪は、拘留または科料しか科せられることのない罪です。
なので、刑法64条だけを当てはめて考えると、軽犯罪法違反の幇助犯は成立しないことになります。
しかし、軽犯罪法には、3条の「第1条の罪を教唆し、又は幇助した者は、正犯に準ずる」という‶ 特別の規定 ″ があることで、軽犯罪法違反の幇助犯が成立するという法律の設計になってるのです。