窃盗の公訴事実を遺失物等横領罪の犯罪事実で認定しても違法ではない
検察官が、窃盗罪(刑法235条)で起訴した罪を、裁判官が、裁判で提出された証拠を検討した結果、遺失物等横領罪(刑法254条)の罪で認定して判決を出したとしても、違法ではありません。
この点については、以下の判例があります。
この判例で、裁判官は、
- 公訴事実の日時場所、方法等に多少の相異があつても、基本的事実関係が同一であるとみられる場合には公訴事実の同一性を失わないものといわなければならい
- 本件公訴事実たる窃盗の事実と原判決の認定した遺失物横領の事実とは、その日時、場所において近接し、双方財産を領得する犯罪であって対象となった財物も同一であるから、基本的事実関係が同一であるとみられるのである
- 従って、原判決が本件公訴事実に対し遺失物横領の認定をしても、違法があるとはいえない
と判示し、窃盗の事実と遺失物等横領罪の事実につき、日時・場所において近接し,いずれも財産を領得する犯罪であって対象となった財物も同一であるから、基本的事実関係が同一と見ることができ、公訴事実の同一性は失われず、窃盗の公訴事実に対して遺失物等横領の認定をしても違法があるとはいえないとしました。
詐欺の公訴事実を遺失物等横領罪の犯罪事実で認定しても違法ではない
上記窃盗罪の事例と同様に、詐欺罪(刑法246条)の公訴事実を遺失物等横領罪の罪で認定して違法ではないとした以下の判例があります。
この判例で、裁判官は、
- 詐欺の事実と遺失物等横領罪の事実について、犯罪の日時、場所が近接し、同一財物、同一被害者に対する領得罪であることを理由として、基本的事実関係が同一であり、公訴事実の同一性は失われない
として、詐欺罪の公訴事実を遺失物等横領罪の罪で認定して違法ではないとしました。
犯罪事実の記載方法に関する判例
遺失物等横領罪の犯罪事実には、
- 客体となる財物が他人の所有に係るものであること
- その者の意思に基づかずにその占有を離れたものであること
を明記する必要があります。
客体となる財物が、他人の所有に係るものと認められれば足り、所有権の具体的帰属まで明らかにすることまで必要とするものではないので、所有権者の具体的明示は必ずしも必要とされません。
この点について、以下の判例があります。
松林内に墜落していた軍用飛行機の機体を拾得して他人に売却したという事案で、裁判官は、
- (原判決は)機体が占有を離れた他人の物であったこと並びに被告人がこれを他人に売却して横領したことを明示しているのであるから、刑法254条所定の横領罪の判示として十分であり,本件機体の所有権が現に何人に属するかを判示することは同条の犯罪を認定するにつき必要な事項ではない
と判示しました。