法律(刑法)

遺失物・占有離脱物横領罪⑦ ~「遺失物等横領罪と窃盗罪・強盗殺人罪・詐欺罪・横領罪・盗品等無償譲受け罪との関係」を判例で解説~

 遺失物等横領罪(刑法254条)と他罪との関係を解説します。

窃盗罪との関係

 領得した物に対して、

他人の占有が及んでいる

と認められれば、遺失物等横領罪ではなく、

窃盗罪(刑法235条

が成立します。

 領得した物が、

他人の占有を離れている(自己の占有下にある場合を含む)

と認められれば、窃盗罪ではなく、

遺失物等横領罪

が成立します。

 遺失物等横領罪が成立するか、窃盗罪が成立するかの判断基準は、

遺失物・占有離脱物横領罪② ~「占有を離れたかどうか(占有の有無)の判断基準」『「占有を離れた」と認められ、遺失物等横領罪が成立した判例』を解説~

遺失物・占有離脱物横領罪③ ~『 「占有を離れた」と認められず、遺失物等横領罪は成立せず、窃盗罪が成立するとした判例』を解説~

の記事で判例を基に行っています。

 また、占有離脱物横領をする意図で、窃取行為をした場合は、刑法38条2項が適用され、遺失物等横領罪が成立します。

 この点について、以下の判例があります。

東京高裁判例(昭和35年7月15日)

 被害者が、混雑時の渋谷駅の山手線の出札口で切符を買った際に、出札口の台の上にカメラを放置し、友人と話しながら5分を超えない時間内に10mくらい歩いたところで置き忘れに気付き、すぐに引き返したが、その間に被告人が持ち去った事案で、裁判官は、

  • 刑法上の占有は、人が物を実力的に支配する関係であって、その支配の態様は、物の形状その他具体的事情によって一様ではないが、必ずしも物の現実の所持又は監視を必要とするものでなく、物の占有者の支配力の及ぶ場所に存するをもって足りる
  • また、その物がなお占有者の支配内にあるかどうかは、通常人ならば何人も肯首するであろうところの社会通念によって決すべきである
  • 本件における事実関係においては、社会通念上、本件カメラの占有は、なお被害者にあるものと判断すべきであり、本件場所が東京都内でも最も乗降客の多い渋谷駅付近であり、時間も最も混雑する頃で、人が相当混雑していたと思われること及び5分間も経っていたことを理由として、被害者の占有が失われ、本件カメラは、占有離脱物であるとすることは、当たらないといわなければならない

と判示し、被害者のカメラに対する占有は失われていないと判断しました。

 この判例は、結論として、客観的には窃盗罪が成立するが、犯人の内心は、窃盗の故意ではなく、占有離脱物横領の故意でカメラを領得していることから、占有離脱物横領罪が成立すると判決しています。

 理由は、窃盗罪や占有離脱物横領罪のような故意犯については、故意がなければ犯罪は成立しないという刑法のルール(刑法38条2項)になっているからです(詳しくは前の記事参照)。

強盗殺人罪との関係

 人の死亡に関係した者による財物の領得行為については、占有離脱物横領罪(刑法254条)の成立を認めるだけでは、刑の重さが1年以下の懲役と軽すぎるため、殺された被害者の保護に欠け、法感情にもそぐわないという問題が生じます。

 そこで、判例は、

  • ⑴ 当初から財物を領得する意思で他人を殺害して財物を奪取した場合は、強盗殺人罪(刑法240条)が成立する
  • ⑵ 他人を殺害した後に財物を領得する意思を生じ、その者から財物を奪取した場合は、窃盗罪(刑法235条)が成立する

という判断をしています。

⑴ 当初から財物を領得する意思で他人を殺害して財物を奪取した場合に、強盗殺人罪が成立するとした判例

大審院判例(大正2年10月21日)

 被告人が所持金などを強奪することを企図して、被害者を殺害し、殺害後に金品を奪ったという事案で、

  • 財物強取の手段である暴行によって他人を死亡させ、その占有する財物を領得する行為は、強盗殺人罪の観念中に当然に属するものである
  • なので、財物を領得した行為が、被害者の死後に行われたとしても、当該財物は所有者の意思によらず誤ってその占有を離れた物ではないことはもちろんであり、遺失物横領罪を構成するものではなく、強盗殺人一罪の中に包含処罰されるべきものである

などと判示して、占有離脱物横領罪や窃盗罪ではなく、強盗殺人罪が成立するとしました。

⑵ 他人を殺害した後に財物を領得する意思を生じ、その者から財物を奪取した場合に、窃盗罪が成立するとした判例

大審院判例(昭和16年11月11日)

 暴行を加えて用水路に被害者を転落させて死亡させた後、被害者の財布を見つけて領得したという事案で、

  • 被害物件の刑法上の占有関係は、加害者以外の第三者との関係では占有離脱物であるが、加害者との関係では、被害者が生前に有した財物の所持を、死亡直後においてもなお保護すべき実質的理由があり、依然として被害者に占有があるとみるべきである

などとして、占有離脱物横領罪ではなく、窃盗罪が成立するとしました。

最高裁判例(昭和41年4月8日)

 野外で人を殺害した者が、その直後に領得の意思を生じ、現場で被害者の腕時計を奪った事案で、

  • 被害者が生前有していた財物の所持は、その死亡直後においても、なお継続して保護するのが法の目的にかなうものというべきである
  • そうすると、被害者からその財物の占有を離脱させた自己の行為を利用して財物を奪取した一連の被告人の行為は、これを全体的に考察して、他人の財物に対する所持を侵害したものというべきである
  • よって、奪取行為は、占有離脱物横領ではなく、窃盗罪を構成するものと解するのが相当である

などと判示し、窃盗罪が成立するとしました。

 なお、遺失物等横領罪と強盗殺人罪のより詳しい解説は、

遺失物・占有離脱物横領罪④ ~「死者の占有」「死者から財物を奪取した場合の窃盗罪、強盗殺人罪、占有離脱物横領罪の成否の判断基準」を判例で解説~

の記事で行っています。

詐欺罪との関係

 遺失物等横領罪と詐欺罪(刑法246条)の関係について、以下の判例があります。

東京地裁判例(昭和36年6月14日)、浦和地裁判例(昭和37年9月24日)

 他人が遺失した有効な乗車券を拾得して着服した後、その事実を秘して駅員に差し出し、乗車券の払戻しを受け、又は受けようとしたという事案で、

  • 乗車券の払戻しを受けようとした行為は、不可罰的事後行為に該当するとして、詐欺(未遂)罪は成立しない

としました。

 遺失物等横領罪のような状態犯において、違法状態が継続する中で、領得した物に対して、さらに犯罪行為に該当するような行為をしても、犯罪が成立しない現象を

不可罰的事後行為

といいます(不可罰的事後行為については、前の記事でも詳しく説明しています)。

 この判例に対しては反対説があり、異なる被害者に対する新たな法益侵害を伴うことから、詐欺罪の成立を認めてもよいとする説が近年の有力説になっています。

 この判例において、乗車券を拾得して着服した行為は、遺失物横領罪を構成し、乗車券を落とした被害者に対する法益侵害を発生させています。

 この後に続く、乗車券を払い戻そうとした行為は、詐欺罪を構成し、鉄道会社に対する法益侵害を発生させています。

 それぞれ発生させている法益侵害が異なるので、詐欺罪の成立も認めてもよいのではないかという考え方が近年の有力説になっています。

横領罪との関係

 遺失物等横領罪と横領罪(刑法252条)は、領得した物に対する

委託関係の有無

で区別されます。

 委託関係があれば、横領罪が成立します。

 委託関係がなければ、遺失物等横領罪が成立します。

 横領罪は、他人から預けられるなどして管理を任され、もともと自分の手元にある物を領得したときに成立する犯罪です。

 これに対し、遺失物等横領罪は、他人から管理を任されておらず、自分に管理(占有)がなく、紛失や置き忘れにより、他人の占有状態(管理状態)が失われている物を領得したときに成立する犯罪です。

 このような性質に照らし、遺失物等横領罪は、体系的には、背信的な財物領得罪である横領罪の一種ではなく、他人の占有に属さない他人の財物を領得する罪として、最も単純な形態の領得罪であると位置づけられています。

 この点について、以下の判例があります。

東京高裁判例(昭和25年6月19日)

 被告人が、売却を依頼されていったん自宅で預かっていた短刀を、母親に叱られて返還したが、所有者以外の者が置き場所に困って被告人の家のくず箱の中へ入れていたのを発見して、再び売却を依頼されたものと誤解して売却し、その代金を費消したという事案で、

  • 売却依頼等の委託関係があると誤信していても客観的にそれがなかった場合には、本条の罪(遺失物等横領罪)が成立することはあっても、252条1項の横領罪は成立しない

としました。

 この判例は、遺失物等横領罪と252条の横領罪の関係について、

  • 物の占有の原因が委任・事務管理・後見等の委託関係に基づくことを要するのが252条の横領罪である
  • そのような委託関係が存在しない場合、すなわち遺失物、漂流物、誤って占有した物件、他人の置き去った物件、逸去した家畜等の場合には、 遺失物等横領罪が成立するのは別として、252条の横領罪は成立しない

と判示し、遺失物等横領罪と横領罪を区別する判断基準は、委託関係であることを明示しました。

 そのほか、遺失物等横領罪と横領罪のどちらが成立するかが争点となった判例として、以下のものがあります。

大審院判例(昭和13年9月1日)

 銅板が盗品であることを知らずに、その運搬の委託を受けて占有していた者が、盗品であると察知しながら不正に領得した行為は、遺失物等横領罪ではなく、刑法252条1項の横領罪を構成するとしました。

最高裁判例(昭和23年11月20日)

 被告人が、タイヤを所持する挙動不審者を見つけて、「タイヤはここに置いて行け」と告げたところ、タイヤを路上に置いて自転車で逃げたことから、被告人がそのタイヤを領得したという事案で、

  • タイヤは被告人の占有に帰した事実、すなわち、「交付」の事実を認定することができる
  • 被告人はA(挙動不審者)の意思に基いて、タイヤの占有を承継したものであって、Aは、逃走の際、タイヤの占有を遺棄し、被告人かこれを占有したという事実関係は原判決の認定せざるところである
  • 従って、原判決がその認定の事実に対し、刑法第254条占有離脱物横領の規定を適用しなかつたのは正当である

と判示し、被告人はタイヤを交付により占有を承継した(委託関係があった)ものと認め、252条1項の横領罪が成立するとしました。

盗品等無償譲受け罪との関係

 遺失物等横領罪と盗品等無償譲受け罪刑法256条1項)の関係について、以下の判例があります。

最高裁判例(昭和23年12月24日)

 自己の屋敷の入口に置かれていた玄米5俵を、盗品であることを認識しながら、蔵の中に隠匿した事案で、盗品等無償譲受け罪ではなく、遺失物等横領罪を構成するとしました。

 このような結論が導かれるのは、盗品等無償譲受け罪は、遺失物等横領罪との意思の連絡が必要とされているためです。

遺失物・占有離脱物横領罪①~⑨の記事まとめ一覧

遺失物・占有離脱物横領罪①~⑨の記事まとめ一覧