刑法(恐喝罪)

恐喝罪(22) ~他罪との関係③「恐喝罪と騒乱罪・賄賂罪・住居侵入罪・逮捕監禁罪・業務妨害罪・盗品等罪(盗品等無償譲受け罪)との関係」を判例で解説~

 恐喝罪(刑法249条)と「騒乱罪」「賄賂罪」「住居侵入罪」「逮捕監禁罪」「業務妨害罪」「盗品等罪(盗品等無償譲受け罪)」との関係について、判例を示して説明します。

騒乱罪との関係

 騒乱罪刑法106条)と恐喝罪の関係について判示した以下の判例があります。

大審院判決(昭和2年4月5日)

 騒乱中の恐喝罪は、騒乱罪と観念的競合の関係になります。

 被告人らが、小作料軽減の目的で多衆集合して、人に対して脅迫を、物に対して暴行を加えて騒乱した事案です。

 裁判官は、

  • 暴行脅迫を構成要素とする犯行は、数多存するをもって、多衆集合して暴行脅迫を為したる場合においては、これの1個の行為に基づき発生する事実は、必ずしも騒乱罪に該当するもののみにとどまらず、暴行脅迫を構成要素とする他の各種の犯罪の成立を認むべきことあるべし
  • その如く、騒乱以外の事実が騒乱罪とその性質を異にするものある以上は、その事実を騒乱罪の範囲に包容せしめ、これを不問に付し去るべきにあらずして、その事実に該当する罪名に触れるものとして処断せざるべからず

と判示し、騒乱罪の行為中に恐喝罪を行った場合は、騒乱罪と恐喝罪の両罪が成立し、両罪は観念的競合の関係になり一罪となるとしました。

賄賂罪との関係

 公務員が職務執行に名を借りて恐喝した場合は、収賄罪は成立せず、恐喝罪のみが成立します。

 この点について、以下の判例があります。

最高裁判決(昭和25年4月6日)

 この判例で、裁判官は、

  • 人を恐喝して財物を交付せしめる場合には恐喝罪が成立する
  • 本件のように、公務員がその職務を執行するの意思がなく、ただ名をその職務の執行に藉りて、人を恐喝し財物を交付せしめた場合には、たといその被害者の側においては公務員の職務に対し財物を交付する意思があったときといえども、当該公務員の犯行は、収賄罪を構成せず恐喝罪を構成するものと見るを相当とする
  • すなわち、被害者の側では公務員たる警察官に自己の犯行を押さえられているので、処罰を怖れて財物の交付をするのであって、全然任意に出でた交付ということはできないから、恐喝罪のみを構成するものである

と判示し、収賄罪は成立せず、恐喝罪のみが成立するとしました。

 被害者が畏怖により意思の自由を全く失ってしまっているため、収賄罪は成立し得ず、恐喝罪が成立するという考え方になります。

 また、犯人が同時に恐喝罪の主体と収賄罪の主体であることは可能ですが、被害者が同時に恐喝罪の被害者と贈賄罪の相手方になることはあり得ないことからも、収賄罪と恐喝罪は同時に成立しない解されます。

 なお、恐喝された被害者が自由意思を失っておらず、恐喝罪が成立しない場合には、賄賂罪の成立を問題にすればよいことになります。

住居侵入罪との関係

 住居侵入行為が金員喝取行為の内容である場合は、住居侵入罪と恐喝罪は観念的競合の関係になります。

 この点について、以下の判例があります。

静岡地裁富士支部判決(昭和50年1月16日)

 貸金債権の取立ての名目で、被害者方に押し掛けて脅迫し、そのまま居座って、寝具、電話機などを運び入れ、以来、約48日間、仲間を加えて交互に泊まり込んで、金員を喝取しようとした事案で、裁判官は、住居侵入罪と恐喝未遂罪との観念的競合を認めました。

 裁判官は、

  • 住居侵入罪と恐喝未遂罪の罪数関係につき考察すると、本件住居侵入行為は、金員喝取行為の内容そのものであって、継続的な住居侵入行為の途中において一時的に恐喝行為に及んだ場合と異なり、右両行為は時間的にもその大部分において一致するばかりでなく、相互間に極めて密接した統一的関連性が認められるのであるから、法的評価をはなれ、構成要件的観点を捨象した自然的観察のもとでこれを評価すれば、社会的見解上一個の行為と評価しうるものである
  • したがって、本件における住居侵入罪と恐喝未遂罪とは観念的競合の関係にあるものと解するのが相当である

と判示しました。

逮捕監禁罪との関係

 恐喝の目的で人を監禁した場合は、監禁罪と恐喝罪とは、牽連犯の関係にはならず、併合罪になります。

 この点について、以下の判例があります。

最高裁判決(平成17年4月14日)

 この判例で、裁判官は、

  • 原判決は、被告人が共犯者らと共謀の上、被害者から風俗店の登録名義貸し料名下に金品を喝取しようと企て、被害者を監禁し、その際に被害者に対して加えた暴行により傷害を負わせ、さらに、これら監禁のための暴行等により畏怖している被害者を更に脅迫して現金及び自動車1台を喝取したという監禁致傷、恐喝の各罪について、これらを併合罪として処断した第一審判決を是認している
  • 恐喝の手段として監禁が行われた場合であっても、両罪は、犯罪の通常の形態として手段又は結果の関係にあるものとは認められず、牽連犯の関係にはないと解するのが相当である

と判示しました。

 監禁罪と恐喝罪との関係ではなく、監禁罪と恐喝罪以外の罪との関係では、最高裁判例は、不法監禁罪と強姦致傷罪とは牽連犯にならないとし(最高裁判決 昭和24年7月12日)、逮捕監禁罪と傷害罪とは牽連犯にはならないとし(最高裁決定 昭和43年9月17日)、逮捕監禁罪と身代金目的拐取罪等とは併合罪になり(最高裁決定 昭和58年9月27日)、不法監禁罪と殺人罪とは併合罪になる(最高裁判決 昭和63年1月29日)と判示してきており、この延長線上に、最高裁は、上記平成17年判決で、監禁罪と恐喝罪との関係でも、両罪は牽連犯にはならないとして、判例を変更をしたものとされています。

業務妨害罪との関係

 恐喝の目的で、営業妨害の虚偽事項を新聞紙に掲載して恐喝した場合は、業務妨害罪(営業妨害罪)と恐喝罪とは牽連犯の関係になります。

大審院判決(大正2年11月5日)

 この判例で、裁判官は、

  • 被告は恐喝罪を遂行せんがため、他人の営業を妨害すべき虚偽の事項を新聞紙上に掲載し、もし出金せざるにおいては、引続きその記事を掲載すべき態度を示し、他人を畏怖せしめて、もって金員を交付せしめたりというにあれば、右営業妨害の行為は、恐喝罪の具体的構成事実なりといえども、金員の交付を為さしむるために施したる手段にほかならざれば、刑法第54条第1項後段にいわゆる犯罪の手段たる行為にして他の罪名に触れるものなりとす

と判示し、業務妨害罪(営業妨害罪)と恐喝罪とは牽連犯の関係になるとしました。

盗品等罪(盗品等無償譲受け罪)との関係

 盗品であることの情を知りながら、盗品を所持する者を恐喝し、盗品の交付を受けた場合は、盗品等無償譲受け罪(贓物収受罪)と恐喝罪とは観念的競合の関係になります。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(昭和6年3月18日)

 この判例で、裁判官は、

  • 贓物(盗品)を所持する者の所持自体は、法律上の保護を享受すべきものなるをもって、苟も贓物を所持する者に対し、恐喝手段を施用し、もってその情を知りながら、贓物の交付を受けるにおいては、恐喝罪のほかに贓物収受罪(盗品等無償譲受け罪)の成立するや論なし

と判示し、盗品であることの情を知りながら、盗品を所持する者を恐喝し、盗品の交付を受けた場合は、盗品等無償譲受け罪と恐喝罪とは観念的競合の関係になるとしました。

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