害悪告知の方法に制限はない
脅迫罪(刑法222条)の成立を認めるにあたり、害悪を告知する方法について制限はありません。
この点については、以下の判例で示されています。
大審院判決(大正8年5月26日)
この判例で、裁判官は、
- 脅迫罪を構成するには、犯人が人を脅迫するの目的をもって、刑法222条所定の害悪を加えるべきことを相手方に知らしむる手段を施し、相手方がこれによって加害行為を行われるべきことを知りたる事実あるをもって足り、必ずしも犯人が言語その他方法をもって、直接相手方に対し、害悪を加えるべきことを通告するの要なきものとす
と判示し、脅迫罪の成立を認めるには、畏怖心を生じさせる程度の害悪を相手に告知する行為と認められる何らかの手段をとり、それによって相手方が知ったという事実があれば足りるとしました。
この判例で、裁判官は、
- 脅迫罪における害悪の告知は、被害者に対し、直接になす必要なく、被告人において脅迫の意思をもって害悪を加うべきことを知らしめる手段を施し、被害者が害悪を被むるべきことを知った事実があれば足る
と判示し、害悪の告知の手段に限定はないとしました。
害悪の告知の方法(言葉による方法)
脅迫罪で実際に行われる害悪の告知の方法を挙げると、
- 言葉による方法
- 態度、動作による方法
- 暗示的方法
- 第三者を介した告知
に分類することができます。
この記事では、「①言葉による方法」について詳しく説明します。
害悪の告知の方法の典型は、言葉により脅迫文言を伝える方法です。
具体的な方法として、直接的に言辞を弄する方法、脅迫文書による方法、電話、郵便、電子メール、インターネットによる方法などが挙げられます。
文書による脅迫の具体的事例
文書による脅迫の具体的事例として、以下の判例があります。
- 「僧侶の勤務をなすときは、闇討ち山の如くするぞ。生命は覚悟せよ」との葉書を郵送した事例(大審院判決 大正11年4月25日)
- 「出火御見舞申上げます。火の元に御用心」「出火御見舞申上げます。火の用心に御注意」という趣旨の文面の葉書を送付した事例(最高裁判例 昭和35年3月18日)
- 脅迫文言を記載したビラを貼りつけた事例(東京高裁判決 昭和28年5月4日)
- 偽造した検察庁への呼出状を送付した事例(広島高裁岡山支部判決 昭和30年2月8日)
- 脅迫を内容とする郵便葉書を検事に送付した事例(札幌高裁判決 昭和30年11月15日)
- 短刀又は木刀を条件として表示して決闘の申込みをする果たし状を郵便葉書で郵送した事例(仙台高裁判例 昭和32年2月28日)
- 一家を毒殺するなどとの差出人不明の手紙を3回連続して郵送した事例(山形地裁判決 昭和39年9月8日)
電話による脅迫の具体的事例
電話による脅迫の具体的事例として、以下の判例があります。
- 電話で暴力団の組幹部が逮捕された事件の実情をよく知っている被害者に対し、暴力団の威力を背景に身体に対する加害を暗示して脅迫し、強談威迫した事例(鹿児島地裁判決 昭和38年7月18日)
- 匿名の電話による「Nを辞めさせろ、辞めさせなかったら爆弾を手に入れてお前の家に放り込む。覚悟しとれ」などと脅迫した事例(大阪地裁判決 昭和43年10月5日)
インターネットによる脅迫の具体的事例
インターネットを利用した脅迫の事例として、以下の判例があります。
- インターネット掲示板への開催予定の講座に関する「一気にかたをつけるのには、文化センターを血で染め上げることです」などとの書き込みが、講座主催者に講座の中止や会場の巡回などを余儀なくさせることが当然に予想できるなどとされ、脅迫罪及び威力業務妨害罪の成立を認めた事例(東京高裁判決 平成20年5月19日)
次回記事に続く
次回の記事では、「害悪の告知の方法②(態度、動作による方法)」について説明します。