刑法(脅迫罪)

脅迫罪(7) ~「害悪の告知は、それが実現されることで犯罪となることを要しない」を判例で解説~

害悪の告知は、それが実現されることで犯罪となることを要しない

 告知される害悪の内容は、それが実現されることによって犯罪となるものであることを要しません。

 これは、害悪の告知の内容となる加害が、犯罪であることを要せず、また違法な行為であることも要しないとの前提に立っているからです。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(大正2年11月29日)

 選挙契約に違反して、他の候補者を選挙したために、事前の特約に則り、絶交の通知をしたという事案で、裁判官は、

  • 脅迫罪は、加害者の加えんとする害悪が、それ自体に刑法の犯罪を構成する場合において成立するものにして、その加えんとする害悪が、適法行為または放任行為に属し、法律においておいて、これを罰せざるものなるときは、その害悪を加えんと威嚇する加害者の行為もまた、脅迫罪を構成することなきは、多数立法例において、これを認めるところなりといえども、現行刑法は、脅迫罪の構成要件として、通告せられたる害悪が犯罪を構成すべきものなることを要求せざるをもって、いやしくも相手方の名誉その他の法益に対する害悪の通告ありて、その通告が相手方をして畏怖の念を生ぜしむべきものなるときは、通告者の行為は、安寧を害する故をもって、脅迫罪を構成する
  • 通告に係る害悪が、その実現によりて犯罪となるべきものなる否やは、これを問うの必要なきものと解せざるべからず
  • 従って、多衆が共同して為したる絶交の通告は、人の名誉に対する害悪の通告によりて、これをして畏怖の念を生ぜしむるものなれば、脅迫罪を構成すべき害悪の通告たるに妨げなきものとす

と判示し、害悪の告知の内容が犯罪になるかどうが脅迫罪の成否に影響しないとしました。

大審院判決(大正9年12月10日)

 村八分の事案で、裁判官は、

  • たとえ通告する害悪が刑法上の要件を欠くがために、名誉毀損を構成せざるも、脅迫罪の成立を妨げす

と述べ、害悪の告知の内容が名誉棄損罪を構成しなくても、脅迫罪が成立すると明確に判示しました。

大審院判決(大正3年12月1日)

 この判例は、加害の内容が、告訴する意思がないのに告訴すると通知することでもよいとしました。

 裁判官は、

  • 親告を受けたる者が、真に親告罪の告訴をなす意思なきにかかわらず、親告者を畏怖せしむる目的をもって、告訴をなすべき旨の通告をなしたるときは、脅迫罪を構成す

と判示しました。

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