前回の記事の続きです。
脅迫罪における正当防衛
正当防衛(刑法36条)とは、
急迫不正の侵害に対して、自分または他人を守るために、やむを得ずにした反撃行為
をいいます。
刑法には、『自分に危険が迫っているときは、反撃して自分の身を守ることができる』ことが明確に規定されているのです。
正当防衛が成立すれば、反撃行為が殺人罪や傷害罪を構成しても、違法性が阻却され、犯罪を構成せず、処罰されずに済みます(正当防衛についての詳しい説明は前の記事参照)。
脅迫行為が正当防衛に当たるかどうかが判断された判例を紹介します。
大審院判決(昭和8年7月28日)
電気料金を支払わず、電気の使用と止められた者が、電気会社社員を脅迫した事案で、裁判官は、
- 電気会社が、電灯料金の不払者に対し、規定に基づき断線により送電を中止しようとするのは、不法行為ではないから、断線を命じた社員を脅迫した行為は違法である
と判示し、被告人の脅迫行為は正当防衛に当たらないとして、暴力行為等処罰に関する法律1条の共同脅迫罪の成立を認めました。
年齢も若く、体格も優れた相手から「お前殴られたいのか」と言って手拳を前に突き出し足を蹴り上げる動作を示されながら近づかれ、さらに後ずさりするのを追いかけられたという状況の下で、刃体の長さ17.7センチメートルの包丁を構え、3メートル離れた相手方に「切られたいか」などと脅迫した行為について、正当防衛が認められた事例です。
裁判官は、
- 被告人は、年齢も若く体力にも優れたAから、「お前、殴られたいのか。」と言って手拳を前に突き出し、足を蹴り上げる動作を示されながら近づかれ、さらに後ずさりするのを追いかけられて目前に迫られたため、その接近を防ぎ、同人からの危害を免れるため、やむなく本件菜切包丁を手に取ったうえ、腰のあたりに構え、「切られたいんか。」などと言ったというものであって、Aからの危害を避けるための防御的な行動に終始していたものであるから、その行為をもって防衛手段としての相当性の範囲を超えたものということはできない
と判示し、防衛行為の成立を認めました。
和歌山地裁判決(昭和50年4月22日)
この判例は、暴力団抗争において、数人で共同して脇差の抜身と拳銃を示して脅迫した行為について、正当防衛を認めました。