可罰的違法性とは?
可罰的違法性とは、
犯罪が成立するためには、行為が違法だというだけでは足りず、犯罪として刑罰を科すに値する程度の実質的違法性も有していなければならないとする考え方
をいいます。
たとえば、Aが、普段は仲が良い友人とけんかをした際に、友人に対し「殴ってけがさせるぞ」と脅迫して脅迫罪が成立した場合(その後、Aと友人は仲直りしている)、Aに対して脅迫罪の成立を認め、刑罰を受けさせるのは妥当でないと考えられます。
このように、犯罪に該当する行為をしても、内容が軽微である場合は、裁判官は、可罰的違法性がないとして、犯罪が成立しないと判断する場合があります。
脅迫罪における可罰的違法性
脅迫罪(刑法222条)は、構成要件には該当し、犯罪の成立が認められるものの、事案が軽微なものもりありえ、可罰的違法性が問題となることがあります。
具体的事例として、次の判例があります。
東京高裁判決(昭和45年4月27日)
別居した妻の家で、深夜、妻と被害者が電灯を暗くしてこたつで横になっているのを見て激高し、軍刀を示して「下手なことを言うと叩き切る」などと怒鳴った事案で、裁判官は、
と判示しました。
大阪地裁判決(昭和47年4月21日)
市当局と地域住民団体との集団的交渉の場で、住民が「お前ら今日帰れると思ったら間違いだぞ」「回答が出るまで夜通しでもやるぞ」「いてまうぞ」などと発言した事案で、裁判官は、
- 集団的な交渉の場においては、そのこと自体に内在する特質から、その相手方に集団によるある種の心理的圧迫を伴うのが普通のことであるので、集団的な交渉をすること自体、違法、不当とみなされる場合は別にして、本件のように集団的な交渉自体は民主的な地方行政のあり方を求める地域住民の市当局に対する直接的な対市交渉として違法、不当なものとは考えられない場合においては、集団による心理的圧迫を必要以上に過大評価することは相当でない
- 集団交渉の場における言動が、脅迫罪に該当し、かつ可罰的であるというためには、集団交渉の場において、通常予期される事態の範囲を著しく逸脱し、その場にふさわしくない、人を畏怖させるに足りる害悪の告知と評価すべき言動のあることを要する
- 言動の主観的意図(動機、目的)、意味、内容、実害、脅威の程度、当日までの経緯、背景、当日の交渉の経過などを総合し、暴力行為処罰法1条の3 (刑法222条)に外形的に該当するとしても、その言動は、特に社会一般の処罰感情を刺激する程度には至っておらず、健全な社会通念に照らし、未だ右法律違反の罪として処罰すべき程度の実質的違法性を有していないものと解すべきである
旨判示し、可罰的違法性を欠くという観点から脅迫罪は成立しないとして、無罪を言い渡しました。
鹿児島地裁判決(平成2年3月16日)
公務の執行が違法であるため公務執行妨害罪が成立しない場合に、違法な公務の執行に対してなしたモップを手にして暴言を吐きながら警察官に近づき胸を押したり石を投げた行為について、裁判官は、
独立して暴行、脅迫罪の成立を認めるべき違法性を備えているとはいえない
と判示し、警察官の違法な公務に対して行った警察官に対する脅迫・暴行行為について、可罰的違法性を欠くとして、無罪を言い渡しました。