刑法(脅迫罪)

脅迫罪(14) ~「脅迫罪が成立するには、告知内容の害悪が発生する可能性があるように告知される必要がある」を判例で解説~

脅迫罪が成立するには、告知内容の害悪が発生する可能性があるように告知される必要がある

 脅迫罪(刑法222条)における害悪の告知について、告知内容の害悪は、現実に発生することも、現実に発生する見込みであることも必要としません。

 しかし、脅迫罪の成立を認めるにあたり、

告知内容の害悪が発生する可能性があるように告知される必要

があります。

 告知内容の害悪が発生する可能性があるように告知されれれば、害悪の発生が確実なものとして告知されるのでも、単に可能なものとして告知されるのでもよいと解されています。

 この点を示した参考となる判例として、次のものがあります。

大審院判決(昭和10年11月22日)

 「自分は国粋会の顧問をし、地方に相当名を売っている。県庁にも知人がおり、お前の夫(商業学校教員)の首を切るくらいは訳はない」などと申し向けた事案で、裁判官は、

  • 第三者行為による害悪の告知におり脅迫の成立する場合においては、自己が第三者の害悪行為の決意に対し、影響を与え得る地位にあることを相手方に知らしむるをもって足り、現実、自己が右の如き地位にあると否と、害悪の実現可能なると否とは、これを問わざるものと解するを相当となす

と判示しました。

東京高裁判決(昭和32年3月7日)

 この判例は、一般人が「豚箱に入れてやる」(留置する)と申し向けて脅迫した事例です。

 まず、被告人の弁護人が、

  • 「お前らがうそを語れば、手前の家のおやじを、10日でも20日でも豚箱に入れてやる」旨申し向けたとしても、被告人には、他人を豚箱に入れる(留置する)権限がないのであって、脅迫罪を構成しない

と主張しました。

 この主張に対し、裁判官は、

  • 刑法第222条の脅迫罪は、同条に列記してある法益に対して、一般に人を畏怖させるに足る害悪を加うべきことを不法に告知することによって成立する犯罪である
  • その害悪は、告知者みずから直接に加え得るものでなくとも、第三者をして害悪を加えさせることができる場合にも同罪は成立するものである
  • この場合には、告知者が、何らかの方法をもって害悪の発生に影響を与え得る立場にあることを相手方に知らせる必要はあるが、しかし、ただ相手方にそう感じさせるように告知すれば足りるのであって、真実そのような立場にあることや、その害悪の実現が可能であることは、必ずしもこれを要しないものと解すべきである
  • 「豚箱に入れてやる。」という文言が、他人を留置させてやることを意味し、他人に対してかような文言を申し向けることが、人の身体や自由に対する害悪の告知であって、その害悪たるや一般に人の畏怖させるに足るものであることが明らかであるから、被告人の所為は、Bに対して、Bの親族たる父Aの身体や自由等に対し害を加うべきことを告知したものと認めるのが相当であるというべく、刑法第222条第2項の要件を具備するものといわなければならない

と判示し、「害悪の実現が可能であることは必ずしもこれを要しない」と述べた上、脅迫罪の成立を認めました。

害悪の発生可能性が乏しいとして脅迫罪の成立を否定した判例

 被告知者が害悪の発生可能性が乏しいと容易に知ることができる事案では、脅迫罪が成立しない場合もあります。

 この点について参考となる判例として、次のものがあります。

金沢地裁判決(昭和41年10月15日)

 労働組合と会社との団体交渉の機会において、「そんなやつは2階の窓からほうり出せ」などと発言した事案で、裁判官は、

  • 窓の構造から一見して発言内容の実現性に乏しいことを知りえ、相手がその危険を感ずるはずがないことは、発言者も分かっていたのではないかと思われる

とし、脅迫罪の成立を否定しました。

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