刑法(横領罪)

横領罪(10) ~「不動産登記が有効でない場合は、有効でない登記の登記名義人は不動産の占有者にならない」「未登記の不動産については、事実上その不動産を支配・管理する者に占有が認められる」を判例で解説~

 前回の記事の続きです。

不動産登記が有効でない場合は、有効でない登記の登記名義人は不動産の占有者にならない

 不動産登記が有効でない場合は、有効でない登記の登記名義人は不動産の占有者になりません。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(明治43年4月15日)

 無権限で不動産の保存登記等を行った者が、その不動産に抵当権を設定して銀行から金員をだまし取った事案で、登記が法律上効力を有せず、名義人が有効に不動産を処分することができる状態にないことを理由として、無権限で不動産の保存登記等を行った者を不動産の占有者ではないとしました。

大審院判決(大正5年6月24日)

 この判例は、法律上何らの効力を有しない登記の名義人を占有者ではないとしました。

未登記の不動産については、事実上その不動産を支配・管理する者に占有が認められる

 未登記の不動産の場合、事実上、その不動産を支配・管理する者に占有があると解されています。

 未登記の不動産について、その不動産を支配・管理する者に占有があるとし、横領罪の成立を認めた判例として、次のものがあります。

最高裁判決(昭和30年4月5日)

 この判例で、裁判官は、

  • 他人所有の建物を適法な権限に基いて現実に使用管理するときは、刑法252条1項にいわゆる「占有」にあたるのであって、かかる占有者が当該建物を不法に自己の物とすることを決意し、その意思を表現する行為に出た以上、横領罪を構成すべきことは当裁判所ならびに大審院の判例の趣旨とするところである
  • 従って、数名の共有に属する未登記建物について、そのうちの一部の者が他の者の合意の下に、その全部を現実に使用支配している場合に、右の一部の者が、他の持分権利者を無視排除して、自己等のみで設立した有限会社に、自己等のみの共有建物としてこれを現物出資し、同会社のため会社名義をもって所有権の保存登記を為し、もって不正領得の意思を表現する行為に出た以上、登記の効力の如何にかかわらず、横領罪を構成することはもちろんである

と判示しました。

最高裁決定(昭和32年12月19日)

 設立中の株式会社の財産について、横領罪の成立するとした事例です。

 個人で自動車部品販売修理事業を営んでいた被告人が、株式会社に組織を改めるため募った資金によって建設された自動車修理工場である未登記建物を、自己名義に登記した上、他に譲り渡した事案です。

 裁判官は、

  • 株式会社設立のため出資された資金によって建設された建物が、会社設立前でも出資者の組合財産であると認められる場合は、組合の事業を委されている者が、これを自己名義に保存登記をした上、自己の債務弁済に供するため他に譲渡した場合は、横領罪を構成する

旨判示しました。

次の記事

横領罪(1)~(65)の記事まとめ一覧

 横領罪(1)~(65)の記事まとめ一覧