刑法(横領罪)

横領罪(51) ~横領行為の類型⑫「着服による横領罪」「搬出・帯出による横領罪」を判例で解説~

 横領行為の類型は、

①売却、②二重売買(二重譲渡)、③贈与・交換、④担保供用、⑤債務の弁済への充当、⑥貸与、⑦会社財産の支出、⑧交付、⑨預金、預金の引出し・振替、⑩小切手の振出し・換金、⑪費消、⑫拐帯、⑬抑留、⑭着服、⑮搬出・帯出、⑯隠匿・毀棄、⑰共有物の占有者による独占

に分類できます。

 今回は、「⑭着服」「⑮搬出・帯出」について説明します。

着服による横領罪

 着服(ちゃくふく)とは、

他人のための委託物の占有を、自己のための占有に切り替えること

をいいます。

 着服は、拐帯抑留と並んで、費消などの何らかの処分行為に至る前段階で不法領得の意思を発現したと認められる場合を包含する幅広い概念です。

 裁判において、着服後の費消などの事実が、証拠上は具体的に判明しない場合でも、少なくとも着服したことについては認定し得ることもあり、着服横領とされる事案は多いです。

 参考となる判例として、以下のものがあります。

東京高裁判決(昭和30年3月14日)

 この判例で、裁判官は、

  • 特定されていない複数の費消行為ではなく、その前段階の1回の着服行為を横領と認めるべきである

と判示しました。

搬出・帯出による横領罪

 委託物を、ほしいままに他に搬出・帯出(たいしゅつ)する行為は横領罪となります。

 搬出・帯出による横領の判例として、以下のものがあります。

大審院判決(明治43年10月11日)

 この判例で、裁判官は、

  • 他人所有の郵便切手を占有する者が、自己のために売却するため、それを自宅から搬出した以上、その後に郵便切手が売却されたかどうかは犯罪の成否に影響しない

と判示し、搬出行為の時点で横領罪が成立するとしました。

東京高裁判決(昭和34年4月21日)

 この判例で、裁判官は、

  • 郵便局職員が、同僚職員の俸給中から分類所得税として源泉徴収して保管する金員を、自宅に持ち帰ることによって横領罪は既遂となり、税金を政府に納入する期限の前であっても犯罪の成否に影響しない

と判示し、搬出行為の時点で横領罪が成立するとしました。

大審院判決(大正2年12月16日)

 この判例は、市の助役が、共犯者をして自己の保管する公文書を市役所以外に帯出して隠匿させた行為について、横領罪の成立を認めました。

大審院判決(昭和10年7月4日)

 この判例は、収入役が保管中の村役場の基本財産である債券を、役場から持ち出した行為について、横領罪の成立を認めました。

大審院判決(昭和10年7月10日)

 この判例は、信用組合連合会の主事が、有価証券類を保管金庫から取り出して、株式清算取引証拠金代用又は債務担保として差し入れた行為について、横領罪の成立を認めました。

最高裁決定(昭和36年12月26日)

 この判例は、執行吏により仮処分を受けた物に関し、代理占有保管の委任を受けた者が、これを売却する意思で、指定された場所から搬出し、他の場所の倉庫に預け入れた行為について、横領罪の成立を認めました。

東京高裁判決(昭和26年11月20日)

 この判例は、薬施用者の地位を有する診療所長である医師が、診療所の金庫で保管していた麻薬を、自己又は妻の麻薬中毒症緩和に施用するために持ち出して自宅に持ち帰った行為について、業務上横領罪の成立を認めました。

東京地裁判決(昭和60年2月13日)

 この判例は、会社の機密資料の内容をコピーするために、会社の保管場所から持ち出した行為について、業務上横領罪の成立を認めました。

次の記事

横領行為の類型の記事まとめ

横領罪(40) ~横領行為の類型①「横領行為としての『売却』」「仮装売買による横領罪の成否」「売却の意思表示をした時に横領罪は成立する」「不動産の売却に関する横領罪の成立時期」を判例で解説~

横領罪(41) ~横領行為の類型②「二重売買(二重譲渡)による横領罪」を判例で解説~

横領罪(42) ~横領行為の類型③「贈与・交換による横領罪」を判例で解説~

横領罪(43) ~横領行為の類型④「担保供用による横領罪」「質権・抵当権・譲渡担保権の設定による横領」を判例で解説~

横領罪(44) ~横領行為の類型⑤「債務の弁済への充当による横領罪」「貸与による横領罪」を判例で解説~

横領罪(45) ~横領行為の類型⑥「会社財産の支出による横領罪」を判例で解説~

横領罪(46) ~横領行為の類型⑦「交付による横領罪」を判例で解説~

横領罪(47) ~横領行為の類型⑧「委託金の預金、預金の引出し・振替による横領罪」を判例で解説~

横領罪(48) ~横領行為の類型⑨「小切手の振出し・換金による横領罪」を判例で解説~

横領罪(49) ~横領行為の類型⑩「消費による横領罪」「拐帯による横領罪」を判例で解説~

横領罪(50) ~横領行為の類型⑪「抑留による横領罪」「虚偽の事実を述べることで抑留行為となり、横領罪が成立する」「不作為による抑留」を判例で解説~

横領罪(51) ~横領行為の類型⑫「着服による横領罪」「搬出・帯出による横領罪」を判例で解説~

横領罪(52) ~横領行為の類型⑬「隠匿・毀棄による横領罪」「共有物の占有者による独占による横領罪」を判例で解説~

横領罪(1)~(65)の記事まとめ一覧

 横領罪(1)~(65)の記事まとめ一覧