刑法(準強制性交等罪・準強制わいせつ罪)

準強制性交等罪、準強制わいせつ罪(2) ~具体例①「第三者の暴行・脅迫によって抗拒不能の状態に陥っているのを利用した事例」「睡眠剤を投入した事例」「催眠術を利用した事例」を判例で解説~

『心神喪失・抗拒不能に乗じ』の具体例

 準強制性交等罪、準強制わいせつ罪(刑法178条)における『心神喪失抗拒不能に乗じ』とは、この様な状態を利用することをいい、その状態に立ち至った原因を問いません。

 また、心神を喪失させ又は抗拒不能にさせる手段に、暴行・脅迫による場合を除き、限定はありません。

 『心神喪失・抗拒不能に乗じ』の具体例を挙げます。

第三者の暴行・脅迫によって抗拒不能の状態に陥っているのを利用した事例

大阪高裁判決(昭和33年12月9日)

 この判例で、裁判官は、

  • 刑法第177条前段にいわゆる13歳以上の婦女に対する強姦罪(現行法:強制性交等罪)は、犯人自ら(責任無能力者を道具として利用する場合を含む)又は他の共犯者が加えた暴行又は脅迫の手段により、婦女の反抗を著しく困難ならしめて、姦淫する場合に成立するものである
  • 而して、その暴行又は脅迫の手段は、必ずしも強姦の手段として行つたものであることを必要とするものではなく、たとえば、犯人自ら又は他の共犯者が強盗の手段として暴行又は脅迫を加えたため婦女が畏怖しているに乗じ姦淫を遂げるが如き場合には、姦淫に際し改めて暴行又は脅迫を加えなくとも、先に犯人又は他の共犯者が強盗の手段として加えた暴行又は脅迫を利用する場合にも、等しく強姦罪(強制性交等罪)を構成する
  • しかしながら、犯人自ら、又は他の共犯者が暴行又は脅迫を加えることなく、他の第三者が強姦又はその他の犯罪の手段として加えた暴行又は脅迫の行為を単に利用して、他人の犯罪の実行に際し、又はその終了後において、姦淫を遂げることが如き場合には、刑法第178条すなわち婦女の抗拒不能に乗じ姦淫した罪に該当する場合は格別、刑法第177条前段の強姦罪(強制性交等罪)は構成しないものと解すべきである

と判示し、第三者が強制性交又はその他の犯罪の手段として加えた暴行又は脅迫の行為を単に利用し、強制性交した場合には、準強制性交等罪が成立するとしました。

東京高裁判決(昭和36年9月18日)

 Dが被害者を強制性交して傷害を負わせた強制性交等致傷罪の犯行終了後に、被告人Sが犯行現場に到着し、抗拒不能の被害者を強制性交した事案で、裁判官は、

  • 被告人Sは、Dの犯行終了後、現場に至ったのであるし、その姦淫行為の際、自ら暴行とか脅迫を用いたという証拠もないという点からいって、被告人Sが、刑法第181条第177条第60条の犯罪をなしたものであるということは否定されることになる
  • それでは、被告人Sには、何らの罪責がないかといえばそうはいえないのである
  • すなわち、被告人Sは、Dとの自動車内における談話により少女と性交をするという目的をもっていたことは明らかであるし、Dと少女のいる麦畑内の現場に赴いた際発見したのは、とりも直さず被害者が暴力によつて姦淫され、抗拒不能の状態となって地上にあられもない姿態をさらしていた光景であったのであるが、被告人Sは少女が右事由により抗拒不能の状態にあるということを察知しながらも、かかる無ざんな状態に対しても辟易することなく、かえってこれを利用して前記目的のとおり被害者を姦淫したものと認められる点からいって、被告人Sに対しては、少くとも刑法第178条所定の「人の抗拒不能に乗じ姦淫した」(※旧法の条文規定)という罪の成立を認むベきものであるといわなければならない

と判示し、先行者の強制性交により抗拒不能になっている被害者を強制性交等した行為について、準強制性交等罪が成立するとしました。

被害者が使用する薬缶の中にひそかに睡眠剤を投入した事例

広島高裁松江支部判決(昭和38年1月28日)

 事案は、被告人が被害者Fに睡眠薬を飲ませて昏酔させ、Fを姦淫する目的で、Fの不在中、その居室にあった飲料や食料品に睡眠薬を混入させ、Fが飲食するのを待ったが、Fが睡眠薬の入った水を口に入れた際に、苦みを感じたので吐き出し、飲食したなかったため、姦淫の目的を遂げなったというものです。

 この判例で、裁判官は、

  • 強姦の目的をもって、睡眠薬を飲食物に混入した所為は、刑法178条の強姦罪(現行法:準強制性交等罪)の実行に着手したものというべきである
  • 睡眠薬を飲食物に混入した所為が、Fを抗拒不能の状態に陥れる危険のある行為であることは明らかであって、強姦の目的をもってかかる所為に出た以上、Fが抗拒不能の状態に陥らず、また被告人が姦淫行為に着手しなくても、刑法178条の強姦罪(準強制性交等罪)の実行に着手したものというべきである

と判示し、睡眠薬を飲食物に混入して強制性交しようとした行為について、準強制性交等未遂の成立を認めました。

奈良地裁判決(昭和46年2月4日)

 保健所の予防注射と偽って婦女を誤信させ、麻酔剤を注射して昏睡させた事案つき、暴行の程度が軽いとして強制性交等罪の適用を否定し、準強制性交等罪を適用すべきものとしました。

催眠術を利用した事例

東京高裁判決(昭和51年8月16日)

 催眠術を利用した準強姦罪および準強制わいせつ罪が認められた事例です。

 裁判官は、

  • 刑法178条にいう抗拒不能とは、性交やわいせつ行為を拒否することが社会通念上不可能な場合であれば足り、抗拒不能に陥った原因の如何を問わないと解すべきである
  • そして原判決は、原判示第四の事実において、「被害女性にいわゆる後倒法、鈴振りなどの施術をして催眠状態にし、更に、真実、治療に必要な施術を行うものと誤信している同女を、いすにかけた自分のひざの上にあおむけに寝かせ、片手で同女の目を押さえ、ひざで同女の体をゆするなどして、身動きのできない状態にして抗拒不能に陥らせたうえ、他方の手で同女のセーターをまくりあげ、じかに両乳房及び乳首をもむなどのわいせつの行為をし」たものと認定したうえ、これを準強制わいせつ罪に該当するものと判断しているのである
  • 右事実においては、催眠状態と同女がとらされていた姿勢とがあいまって抗拒不能の状態にあったものと認定していることは判文上明らかであって、右のような事情が刑法178条の抗拒不能に当ることはいうまでもない
  • 次に原判決は、原判示第五の事実において、「同女に鈴振りなどの施術をして自由に身動きのできない催眠状態にし、その抗拒不能に乗じて同女を床の上にあおむけに寝かせ、その下着をはぎ取り、その上に乗りかかって同女を姦淫し」たものと認定したうえ、これを準強姦罪(現行法:準強制性交等罪)に該当するものと判断しているのであって、右事実においては同女が催眠状態のみによって抗拒不能の状態にあったと認定したものと解せられるけれども、深い催眠状態にあっては、抗拒不能となる場合もありうることは後記のとおりであるから、右が同条の抗拒不能に当るとしたことが刑法の解釈を誤ったものであるとはいえない

と判示しました。

次回記事に続く

 次回記事では、準強制性交等罪、準強制わいせつ罪の具体例として、

  • 精神障害、知的障害を利用した事例
  • 睡眠中の女子が半覚醒状態で夫が性交を求めてきたものと誤信して、その求めに応じる態度に出た事例

を紹介します。

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