刑法(業務上過失致死傷罪)

業務上過失致死傷罪(1) ~「業務上過失致死傷罪とは?」「業務上の過失を通常の過失より重く処罰する理由」を解説~

 業務上過失致死傷罪(刑法211条前段)について、複数回にわたり解説します。

業務上過失致死傷罪とは?

罪名

 業務上過失致死傷罪は、刑法211条前段に規定される罪で、

  • 人に傷害を負わせた場合→業務上過失傷害罪
  • 人を死亡させた場合→業務上過失致死罪
  • 1回の行為で同時に複数の人に傷害を負わせ、死亡させた場合→業務上過失致死傷罪

の3つの罪名に分類されます。

 なお、刑法211条後段は、重過失致死傷罪の規定になっています。

本罪が定められた趣旨

 業務上過失致死傷罪、重過失傷害罪(刑法211条前段後段)は、過失傷害罪(刑法209条)、過失致死罪(刑法210条)の加重類型であり、人の死傷を招く危険性のある業務に従事する者の過失による死傷と、このような業務に従事していない者であっても、重大な過失によって死傷を生じた場合について、重く処罰することとしたものです。

業務上の過失を通常の過失より重く処罰する理由

 業務上の過失を通常の過失より重く処罰する理由は、

業務者は政策的に特別な注意義務が課せられていることにある

と解されます。

 この趣旨を判示したのが以下の判決です。

最高裁判決(昭和26年6月7日)

 裁判官は、業務上過失致死傷罪を認定するに当たり、

  • 一定の業務に従事する者は、通常人に比し、特別な注意義務あることは論を俟たない

とし、一定の業務に従事する者は、通常の人よりも特別な注意義務があり、業務上の注意義務を怠ったのであれば、過失が認められ、業務上過失致死傷罪が成立する趣旨の判示をしました。

業務者を重く処罰することは憲法14条に反しない

 業務者を重く処罰することが憲法14条(国民は社会的身分により差別されない)に違反するものではないことは、以下の最高裁判決で明らかにされています。

最高裁判決(昭和32年3月26日)

 裁判官は、

  • 刑法211条が、業務上必要な注意を怠り人を死に致した者について、業務にかかわりなき者より重い刑罰を定めているのは、人の地位、身分によつて差別を設けたものではなく、いかなる地位、身分にある者でも、いやしくも一定の業務に従事する者はすべて同条の適用を受け、また業務の種類によってもなんら異なる取り扱いをするものではない
  • 同条は、いわば業務について特別の注意義務を定めたのであって、人が誰であるかは問うところではなく、そして人が一定の業務に従事しているということは、その人の属性による刑法上の身分であって、憲法14条の社会的身分といえないことは、当裁判所の判例の趣旨に徴し明らかである

と判示しました。

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