刑法(監護者わいせつ・監護者性交等罪)

監護者わいせつ・監護者性交等罪(3) ~「被害者の同意があっても本罪は成立する」「故意」「強制わいせつ罪、強制性交等罪、児童福祉法違反との関係」を解説~

被害者の同意があっても、監護者わいせつ罪、監護者性交等罪は成立する

 監護者わいせつ罪、監護者性交等罪(刑法179条)の成立を認めるに当たり、被害者である18歳未満の者のわいせつ行為を受けることの同意の有無は問題になりません。

 18歳未満の者が、監督者からわいせつ行為を受けることに同意していたとしても、そのことが本罪の成立を否定する要件にならないということです。

 18歳未満の者が、監督者からわいせつ行為を受けることの同意があったとしても、本罪は成立します。

 このような取り扱いになるのは、監護者がその影響力があることに乗じて18歳未満の者とわいせつな行為に及んだ場合に、18歳未満の者が抵抗することなく監護者とのわいせつな行為に応じたとしても、その意思決定は、精神的に未熟で判断能カに乏しい18歳未満の者に対して、監護者の影響力が作用したものであり、18歳未満の者の自由な意思決定ということはできないと見なされるためです。

本罪の故意

 本罪は、故意犯です。

 なので、本罪が成立するには、犯人に、現に監護する者であることによる影響力があることに乗じてわいせつな行為を行うことについての認識が必要となります。

(故意犯において、故意がなければ犯罪が成立しないことについては、前の記事参照)

 本罪の故意があるというためには、まず、犯人自身が、自己が18歳未満の者を現に監護する者であることについての故意が必要となります。

  その故意を認めるに当たり、

  1. 同居していること
  2. 指導や身の回りの世話をしていること
  3. 生活費の支払など、経済的な支援をしていること
  4. 未成年者に関する諸手続を行っていること

などの事実を犯人自身が認識していることが認められれば、それで足りるとされます。

 「現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて」の要件について故意があるといえるためには、

  • 「現に監護する者であることによる影響力」が一般的に存在することを基礎付ける事実
  • わいせつ行為時においてもその影響力を及ぼしている状態でわいせつな行為をすることの認識

の2つが必要とされます。

他罪との関係

強制わいせつ罪、強制性交等罪との関係

 監護者わいせつ・監護者性交等罪は、

が存在することを前提に、これらの罰則では処罰できないものの、これらの罪と同等の悪質性が認められる事案に対応するために平成29年に新設された罰則です。

 なので、強制わいせつ罪、強制性交等罪、準強制わいせつ罪、準強制性交等罪が成立する場合には、重ねて監護者わいせつ罪・監護者性交等罪は成立しません。

児童福祉法違反との関係

 18歳未満の者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じてわいせつな行為又は性交等に及んだ行為が、同時に、児童福祉法の児童に淫行をさせる行為(60条1項、34条1項6号)に当たる場合、監護者わいせつ罪又は監護者性交等罪と児童福祉法違反とは併合罪となるのではなく、両者は観念的競合として一罪となります。

監護者わいせつ・監護者性交等罪の記事一覧

監護者わいせつ・監護者性交等罪(1) ~「監護者わいせつ罪、監護者性交等罪は、暴行・脅迫がなくても成立する」「監護者とは?」「監護者の身分のない共犯者が犯行に加功した場合の本罪の成否」を解説~

監護者わいせつ・監護者性交等罪(2) ~「『わいせつな行為』とは?」「『現に監護する者であることによる影響カ』の意味」を解説~

監護者わいせつ・監護者性交等罪(3) ~「被害者の同意があっても本罪は成立する」「故意」「強制わいせつ罪、強制性交等罪、児童福祉法違反との関係」を解説~