前回の記事の続きです。
公判手続は、冒頭手続→証拠調べ手続 →弁論手続→判決宣告の順序で行われます(詳しくは前の記事参照)。
前回の記事では、証拠調べ手続の最初に行う冒頭陳述を説明しました。
今回の記事では、証拠調べ手続のうち、冒頭陳述の次に行う
証拠調べ請求
を説明します。
証拠調べ請求とは?
検察官の冒頭陳述が終わると、検察官、被告人又は弁護人から、裁判官に対し、証拠調べ請求が行われます(刑訴法298条)。
証拠調べ請求は、検察官にとっては、
犯罪事実を証明する証拠を裁判官に提出することを請求する手続
です。
被告人又は弁護人も、自分が犯人でない証拠や、自分の情状を良くするための証拠を裁判官に提出するために、証拠調べ請求を行う場合があります。
とはいえ、証拠調べ請求のほとんどは、検察官が裁判官に対して行うというイメージで捉えればよいです。
証拠調べ請求は、一次的には、検察官、被告人又は弁護人から行われますが、補充的・二次的に、裁判所の職権による証拠調べも認められています(刑訴法298条2項)。
証拠調べ請求は、証拠を厳選して行わなければならない
証拠調べ請求は、証明すべき事実の立証に必要な証拠を厳選して行わなければならないとされます(刑訴法規則189条の2)。
証拠調べ請求の請求権者(検察官、被告人又は弁護人)
証拠調べの請求権者は、
検察官、被告人又は弁護人
です(刑訴法298条1項)。
被告人が法人である場合は、法人の代表者が請求権者になります(刑訴法27条)。
被告人が意思無能力者(強度の精神障害者、乳幼児など)であるときは、その法定代理人(親権者など)が請求権者になります(刑訴法28条)。
被告人に補佐人がいるときは、補佐人が請求権者になります(刑訴法42条3項)。
証拠調べ請求の時期(いつでも行うことができる)
証拠調べ請求は、検察官の冒頭陳述が終わった後であれば、弁論終結まで(検察官の論告、弁護人の弁論が終わり、審理が終了する前まで)であれば、いつでも行うことができます。
証拠調べ請求は、公判中に行うことが通常ですが、公判が開かれない日にも行うことができます(刑訴法規則188本文)。
公判が開かれない日に証拠調べ請求を行う場合は、裁判官に証拠調べ請求の書面を提出する方法で行われます。
ただし、公判前整理手続に証拠調べ請求を行う場合を除き、1回目の公判が開かれる前には、証拠調べ請求をすることはできません(刑訴法規則188条ただし書)。
公判前整理手続、期日間整理手続に付された事件は、証拠調べ請求に制限がかかる
公判前整理手続、期日間整理手続に付された事件は、これらの手続終了後は、やむを得ない事由によってこれらの手続中に請求することができなかったものを除き、新たに証拠調べを請求することはできないという制限がかかります(刑訴法316条の32条1項)。
これは、公判前整理手続、期日間整理手続は、事件の争点・証拠の整理により刑事裁判の審理の充実・迅速化を図る目的で行うものであることから、これらの手続終了後に、新たな証拠調べ請求を認めることになると、事件の争点・証拠の整理を行った意味がなくなり、手続を行った意義が失われるためです。
ただし、公判前整理手続、期日間整理手続に付された事件でも、裁判所が必要と認めるときは、裁判官の職権で証拠調べをすることはできます(刑訴法316条の32条2項)。
証拠調べ請求の順序
証拠調べ請求の順序は、検察官が先に行い、被告人又は弁護人が後に行います。
検察官は、まず、事件の審判に必要と認める全ての証拠について、裁判官に対し、証拠調べ請求を行わなければなりません(刑訴法規則193条1項)。
その後で、被告人又は弁護人は、事件の審判に必要と認める証拠の取調べを請求することができるようになります(刑訴法規則193条2項)。
検察官が先に証拠調べ請求を行うのは、挙証責任(被告人が犯人であるという証明をする責任)が検察官にあるためです。
被告人の自白を記載した証拠は、他の全ての証拠が取り調べられた後でなければ、証拠調べ請求をすることができない
上記のとおり、証拠調べ請求は、検察官が先に行い、被告人又は弁護人が後に行います。
しかし、
については、犯罪事実に関する他の証拠が取り調べられた後でなけれは、検察官は、その証拠の証拠調べ請求を行うことができません(刑訴法301条)。
つまり、
- 検察官は、上記①、②の被告人の自白に関する証拠以外の証拠の証拠調べ請求を行う
- 被告人・弁護人おいて、犯罪事実に関する証拠があれば、その証拠調べ請求を行う
- 検察官は、上記①、②の被告人の自白に関する証拠の証拠調べ請求を行う
という流れになります。
これは、裁判官が、被告人の自白の証拠を先に取り調べることで、
を防止するため、被告人の自白に関する証拠の取調べを一番最後に行うことになるように設計されたものです。
刑訴法301条にいう「犯罪事実に関する他の証拠が取り調べられた後」の意味
刑訴法301条にいう「犯罪事実に関する他の証拠が取り調べられた後」の意味について、最高裁決定(昭和26年6月1日)において、
- 犯罪事実に関する他の全ての補強証拠が取り調べられた後という意味ではなく、被告人の自白を補強し得る証拠が取り調べられた後の意味である
ことを示しています。
共同被告人の供述調書は、被告人の自白を記載した証拠には当たらない
共同被告人(被告人と一緒に同じ公判を受けている共犯者)の供述調書は、被告人の自白を記載した証拠には当たりません。
共同被告人の供述調書は、被告人との関係においては「犯罪事実に関する他の証拠」に当たり、刑訴法301条の制限は受けず、共同被告人の供述調書を先に取り調べても違法にはなりません。
この点を判示した以下の判例があります。
裁判官は
- 刑訴301条は、必ずしも犯罪事実に関する他のすべての証拠が取調べられた後という意味ではなく、自白を補強しうる証拠が取調べられた後であれば足るのであり、共同被告人の検察官に対する供述調書は本件被告人との関係においては刑訴301条の「犯罪事実に関する他の証拠」に当るものと解すべきである
と判示しまし。
次回の記事に続く
次回の記事では、
証拠調べ請求の方法
を説明します。