伝聞証拠⑲~刑訴法328条の証明力を争うための証拠の説明
前回の記事の続きです。
前回の記事では、刑訴法327条の合意書面の説明をしました。
今回の記事では、刑訴法328条の証明力を争うための証拠の説明をします。
刑訴法328条の証明力を争うための証拠の説明
刑訴法328条は、
刑訴法321条ないし324条の規定により証拠とすることができない書面又は供述であっても、公判準備又は公判期日における被告人、証人その他の者の供述の証明力を争うためには、これを証拠とすることができる
とする規定です。
これは、
伝聞証拠として証拠能力のない証拠であっても、被告人・証人等の法廷供述の証明力を争うためであれば、これを証拠とすることができる
ことを定めたものです。
なお、被告人・証人等の法廷供述の証明力を争うためにぶつける証拠を「弾劾証拠」といいます。
刑訴法328条の証明力を争うための証拠として使用される証拠
刑訴法328条の証明力を争うための証拠として使用される証拠は、主に、
の伝聞証拠になります。
刑訴法328条の証明力を争うための証拠が用いられる具体的な状況は、証人尋問を行い、その証人尋問での証人の証言が真実ではないと疑われる場合に、刑訴法328条を使って真実が記載されたその証人の供述書、供述録取書又は伝聞供述を裁判官に提出し、その証人の証人尋問での供述が真実ではないことを主張する場合が該当します。
刑訴法328条の証明力を争うために用いる供述書、供述録取書は、証人尋問後に作成されたものでも刑訴法328条の証拠として使用できます。
この点を判示した以下の判例があります。
裁判所は、
- 公判準備期日における証人Dの尋問終了後に作成された同人の検察官調書を、右証人の証言の証明力を争う証拠として採証した原判決の説示は、必ずしも刑訴法328条に違反するものではない
と判示しました。
刑訴法328条の証明力を争うための証拠として使用できない証
1⃣ 任意性のない自白を内容とする供述調書等
任意性のない自白を内容とする供述書・供述録取書・伝聞供述は、刑訴法328条の証拠として使用できません。
これは、任意性のない自白の証拠能力の否定は、絶対的であるためです(刑訴法319条1項)。
この点につき、参考となる裁判例があります。
裁判官は、
- 原審裁判所が当該各供述調書(※被告人の供述調書)を刑事訴訟法322条第1項但し書によりひいては同法第319条第1項により任意にされたものでない疑があるものとして却下した以上は、同法第328条により被告人又は証人の供述の証明力を争うためにもこれを証拠とすることができないものと解すべきである
と判示しました。
2⃣ 供述者の署名・押印のない供述録取書
供述者の署名・押印のない供述録取書は、録取の正確性の担保がないため、刑訴法328条の証拠として使用できません。
この点を判示した判例があります。
消防指令補がAから聴取した事項を記載して作成した「聞き込み状況報告書」につき、Aの供述を録取した書面であるとしながらも、この書面にはAの署名押印がないことから法の定める要件を満たしておらず、これと同視し得る事情がないため、刑訴法328条が許容する証拠には当たらないとしました。
裁判官は、
- 刑訴法328条は、公判準備又は公判期日における被告人、証人その他の者の供述が、別の機会にしたその者の供述と矛盾する場合に、矛盾する供述をしたこと自体の立証を許すことにより、公判準備又は公判期日におけるその者の供述の信用性の減殺を図ることを許容する趣旨のものであり、別の機会に矛盾する供述をしたという事実の立証については、刑訴法が定める厳格な証明を要する趣旨であると解するのが相当である
- そうすると、刑訴法328条により許容される証拠は、信用性を争う供述をした者のそれと矛盾する内容の供述が、同人の供述書、供述を録取した書面(刑訴法が定める要件を満たすものに限る。)、同人の供述を聞いたとする者の公判期日の供述又はこれらと同視し得る証拠の中に現れている部分に限られるというべきである
- 本件書証は、前記足立の供述を録取した書面であるが、同書面には同人の署名押印がないから上記の供述を録取した書面に当たらず、これと同視し得る事情もないから、刑訴法328条が許容する証拠には当たらないというべきである
と判示ました。
この判決は、「報告書」について聴取者の署名・押印がないとし、刑訴法328条の証明力を争うための証拠として使うことができないとしたものですが、「供述録取書」についても、供述書のの署名・押印がない場合は、署名・押印がなされているものと同視できる事情がない限り、公判供述をした供述者の自己矛盾供述が含まれていても、刑訴法328条による書面には該当しないと解されます。
刑訴法328条の証拠は、証明力を争う対象となる法廷供述者自身の法廷外における自己矛盾の供述に限られる
刑訴法328条の証拠は、証明力を争う対象となる法廷供述者自身の法廷外における自己矛盾の供述に限られます。
つまり、法廷供述者以外のほかの人の書面・供述を、証明力を争う対象となる法廷供述者自身の法廷供述にぶつけることはできません。
この点につき、前記最高裁判決(平成18年11月7日)において、裁判官は、
- 刑訴法328条は、公判準備又は公判期日における被告人、証人その他の者の供述が、別の機会にしたその者の供述と矛盾する場合に、矛盾する供述をしたこと自体の立証を許すことにより、公判準備又は公判期日におけるその者の供述の信用性の減殺を図ることを許容する趣旨のものである
として、刑訴法328条で用いることができる証拠が、法廷供述者自身の自己矛盾の供述に限られると判示しました。
刑訴法328条の「証明力を争う」とは、法廷供述の証明力を減殺することを目的とする場合をいう
刑訴法328条の「証明力を争う」とは、法廷供述の証明力を減殺することを目的とする場合をいいます。
逆に言えば、法廷供述の証明力を増強する目的の場合は、刑訴法328条の「証明力を争う」に該当せず、刑訴法328条を用いて証明力を争うための証拠を裁判官に提出することはできません。
例えば、犯行目撃者Bの証言の証明力を減殺するために、Bが前に警察で述べた自己矛盾の供述調書を提出する場合は、刑訴法328条の「証明力を争う」に該当し、刑訴法328条を用いて証明力を争うための証拠を裁判官に提出することができます。
これに対し、犯行目撃者Bの法廷証言が、Bの警察官作成の供述録取書の記載よりも不明暸であるときに、法廷証言を明瞭にするためにその供述録取書を提出する場合は、刑訴法328条の「証明力を争う」に該当せず、刑訴法328条を用いて証明力を争うための証拠としてその供述録取書を裁判官に提出することはできません。
この点につき、前記最高裁判決(平成18年11月7日)において、裁判所は、刑訴法328条の趣旨について、
- 公判準備又は公判期日における被告人、証人その他の者の供述が別の機会にしたその者の供述と矛盾する場合に、矛盾する供述をしたこと自体の立証を許すことにより、公判準備又が公判期日におけるその者の供述の信用性の減殺を図ることを許容する趣旨のものである
と判示し、刑訴法328条の「証明力を争う」とは、法廷供述の証明力を減殺することを目的とする場合をいうものであることを示しました。
証明力を争う対象となるのは、法廷での供述に限られない
証明力を争う対象となるのは、証人尋問をして法廷でした供述(証言)に限られず、供述書や供述録取書も対象になります。
法廷外供述が供述書・供述録取書の形で法廷に現れた場合は、その供述書・供述録取書に記載された供述が法廷における供述と同視できるため、その供述書・供述録取書に記載された供述の証明力を刑訴法328条で争うことができるのです。
なお、刑訴法328条は「公判準備又は公判期日における…供述」となっているので、法廷での供述に限られているように読めますが、これは典型的な場合を掲げているにすぎないとされます。
参考となる裁判例として以下のものがあります。
東京高裁判決(昭和36年7月18日)
裁判所は、
- 刑訴法328条は「公判準備又は公判期日における、被告人、証人その他の者の供述の証明力を争うため」と規定しているが、同条はもともといわゆる伝聞法則の例外を規定したものであるから、必らずしも、その文言とおり公判準備又は公判期日における被告人、証人その他の者の供述の証明力を争う場合だけに限定する必要はなく、供述書又は供述調書の証明力を争う場合を含めてもさしつかえないものと解される
と判示しました。
刑訴法328条で証拠として裁判官に提出された証拠は、証明力を争うためにのみ使用できる
ここでポイントがあります。
それは、
刑訴法328条で証拠として裁判官に提出された証拠は、証明力を争うためにのみ使用できる
という点です。
なので、刑訴法328条の証明力を争うために提出した供述書、供述録取書については、それらが証拠能力を認める証拠であっても、刑訴法328条を用いて裁判官に提出した以上、これによって犯罪事実を認定することはできません。
したがって、例えば、刑訴法328条で提出した供述録取書(検察官面前調書)が刑訴法321条1項2号の要件を充足する場合で、これを犯罪事実の認定資料としたい場合は、改めて刑訴法321条1項2号を用いてその供述録取書を裁判官に提出する必要があります。
この点を判示した以下の裁判例があります。
仙台高裁判決(昭和28年6月15日)
裁判官は、
- 一旦、刑事訴訟法第328条によって証拠調べをした証拠(※被告人の供述録取書)でも同法第321条第1項第2号の要件を具備する限り、これを同条項号の証拠として取調べることは少しも差支えのないことである
- 原審がこれ(※被告人の供述録取書)に証拠能力を認めて証拠調べをし、判決に援用したことは何ら違法ではない
と判示しました。
また、「刑訴法328条で証拠として裁判官に提出された証拠は、証明力を争うためにのみ使用できる」というルールにより、刑訴法328条による証拠を自白の補強証拠とすることは、それを犯罪事実の認定資料とすることになるため許されません。
この点について以下の裁判例があります。
名古屋高裁判決(昭和28年1月16日)
裁判官は、刑訴法328条によって提出された書面について、罪となるべき事実を認定する資料にもできず、自白の補強証拠とすることもできないとしました。
減殺された法廷供述の証明力を回復するための刑訴法328条による証拠提出(回復証拠)
相手からの弾劾証拠の提出により法廷供述の証明力が減殺されたときに、その減殺された法廷供述の証明力を回復するために、刑訴法328条の証明力を争うための証拠(回復証拠)を提出することができます。
この点に関する以下の裁判例があります。
東京高裁判決(昭和54年2月7日)
裁判所は、
- 検察官請求の右供述調書は、弁護人請求の供述書によって一旦減殺されたSの原審証言の証明力を回復する内容のものであり、検察官もその趣旨のもとに同供述調書の取調を請求したものであることは公判調書の記載上明らかである
- ところで刑訴法328条の弾劾証拠とは、供述証拠の証明力を減殺するためのもののみでなく、弾劾証拠により減殺された供述証拠の証明力を回復するためのものをも含むものと解するのが相当である
- けだし、同法328条には「…証明力を争うためには、これを証拠とすることができる。」とあり、規定の文言上証明カ回復のための証拠を除外すべき根拠に乏しいばかりでなく、右のように解することがすなわち攻撃防御に関する当事者対等・公平という刑訴法の原則、さらに真実の究明という同法の理念にもよく適合するからである
- 同条の弾劾証拠を証明カ減殺のためのものに限定する所論の見解には賛同できない
- なお所論は、仮に証明力を回復するための弾劾証拠が許容されるとしても、検察官請求の供述調書は、結果的にSの原審証言の証明力を増強する趣旨をも含むものであるから、いずれにしても同調書は刑訴法328条の書面としての適格性を欠くと主張する
- しかし、本件において、検察官が、いったん減殺されたSの原審証言の証明力を回復する趣旨のもとに同人の前記供述調書の取調を請求したものであることは前記のとおりであり、同調書の取調により事実上同人の原審証言の証明力が増強される結果となったとしても、これによる不利益は前記のような内容の弾劾証拠を提出した被告人の側において甘受すべきものであって、このことのゆえに右調書の刑訴法328条書面としての適格性を否定すべきいわれはない
- それゆえ、右調書を同条の書面として取り調べた原審の措置には、何ら訴訟手続の法令違反のかどはなく、論旨は理由がない
と判示しました。
東京高裁判決(昭和53年5月17日)
原審においては、弁護人請求の弾劾証拠により、減殺された供述の証明力を回復するために検察官請求の書面を取り調べたものと解するのが相当で、弾劾証拠を弾劾するものにほかならず、原裁判所の訴訟手続が、法令に違反しているとは言えず、仮に原審裁判官が、証人の供述の信用性を回復するための立証を検察官に促したとしても、この訴訟指揮が違憲であるとの所論は、採用できないとした事例です。
裁判所は、
- 所論は、原審において、弁護人は、証人Mの供述の証明力を争うため、同人の検察官に対する昭和51年11月8日付供述調書(控訴趣意書に、同人の司法警察員に対する昭和51年11月4日付供述調書とあるのは、誤記と認める。)の取調を請求したところ、原審裁判官は、右請求につき検察官の意見を求めた際、検察官に対し、右調書を採用しても、Mの検察官に対する同年11月13日付供述調書(控訴趣意書に付とあるのは、誤記と認める。)を同人の供述の証明力を増強するものとして申請すればよいではないかと勧告し、右勧告に基づく検察官の請求に対し、弁護人が異議を述べたにもかかわらず、原裁判所は右検察官調書を採用したが、刑事訴訟法328条所定の証拠は、供述の証明力を減殺するためのものであり、証明力を増強するために適用を認めてはならないものであるのみならず、原審裁判官のこのような事実上の訴訟指揮は、日本国憲法31条に違反するものであるという
- 記録を調査すると、原裁判所が、原審第6回公判期日に、弁護人がMの証言を弾劾するために請求した、同人の検察官に対する昭和51年11月8日付供述調書と、検察官が同人の証言の信用性を回復するため請求した、同人の検察官に対する同月13日付供述調書を、いずれも刑事訴訟法328条の書面として採用し、まず弁護人請求の書面を、次いで検察官請求の書面を取り調べたことが認められるけれども、右検察官の請求が原審裁判官の示唆によるものであるか否かは、記録上明らかではない
- ところで、刑事訴訟法328条による証拠は、証人等の供述の証明力を減殺するために取り調べられるものであって、供述の証明力を増強するために用いてはならないと解すべきことは、所論のとおりである
- しかしながら、本件原審においては、弁護人請求の弾劾証拠により減殺された供述の証明力を回復するために、検察官請求の書面を取り調べたものと解するのが相当であって、弾劾証拠を弾劾するものにほかならず、右のような手続は、刑事訴訟法328条にのっとり当然許されるものといわなければならない
- してみれば、この点に関する原裁判所の訴訟手続が法令に違反しているとはいえない
- また、仮に、原審裁判官が、Mの供述の信用性を回復するための立証を検察官に促したとしても、これまた違法とはいえず、原審裁判官の訴訟指揮が日本国憲法31条に違反するとの所論は採用できない
と判示しました。