前回の記事の続きです。
建造物等以外放火罪の客体
建造物等以外放火罪(刑法110条)の客体は、
建造物、艦船、鉱坑及び現に人がいる汽車・電車以外の一切のもの
です。
言い換えると、
- 現住建造物等放火罪(刑法第108条)の客体(現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物、汽車、電車、艦船又は鉱坑)
- 非現住建造物等放火罪(刑法第109条)の客体(現に人が住居に使用せず、かつ、現に人がいない建造物、艦船又は鉱坑)
に当てはまらないものが、建造物等以外放火罪の客体になります。
例えば、
など全てを含みます。
建造物等以外放火罪の客体の具体例
裁判で建造物等以外放火罪の客体になったものとして以下のものがあります。
- 取り外しの自由な畳、建具その他家屋の従物(最高裁判決 昭和25年12月14日)
- 布団(東京高裁判決 昭和29年10月19日)
- 豚小屋(東京高裁判決 昭和28年6月18日)
- 木綿製広告用懸垂幕(東京高裁判決 昭和36年12月20日)
- 屋根のトタン板が台風で飛散し雨露をしのぐことのできない状態となった物置小屋(名古屋高裁判決 昭和39年4月27日)
- ハサ小屋(秋田地裁大館支部 昭和43年5月20日)
- 自動三輪車を焼損する目的で点火した場合のガソリソタンク内のガソリン及びタンクに固定してあるビニールゲージ(福岡高裁判決 昭和41年9月14日)
建造物等以外放火罪の客体に点火材料として用いられるような紙片などが含まれるか
本条の客体には、一定の限度があると解するのが相当とされます。
例えば、建造物等以外放火罪の客体に点火材料として用いられるような紙片は、本罪の客体に含まれないと考えられます。
この点に関する裁判例として以下のものがあります。
東京地裁判決(昭和40年8月31日)
約2ページの新聞紙に点火して竹かご内に投げ入れたが、新聞紙の約半分を焼損し、竹かごのごく一部を燻焼した事案で、約2ページ分の新聞紙は建造物等以外放火罪(刑法110条)の客体にはならないとされた事例です。
裁判官は、
- 約2頁分の新聞紙の半分位を焼燬した行為が刑法第110条に該当するかどうかを考察することとする
- 刑法第110条は、形式上その客体につき同法第108条及び第109条に記載した以外の物であれば、何ら制限していない如くであるが、刑法第110条の放火罪は、いわゆる具体的危険犯であって、公共の危険の発生を犯罪成立の要件とし、右結果の発生しない場合にはこれを処罰しないと共に、その客体を焼燬するに至らなかった場合、即ち未遂の場合にもこれを処罰する規定をおいていないこと、同条の客体たる「物」は、刑法第116条2項の客体である(刑法第110条に記載した)「物」と同一であること、軽犯罪法第1条第9号は、別に、「相当の注意をしないで、建物、森林その他燃えるような物の付近で火をたき、又はガソリンその他引火し易い物の付近で火気を用いた者」を処罰する規定をおいていることなどを対比考察してみると、刑法第110条第1項(同条第2項も同じ)にいう「前ニ条に記載したる以外の物」とは、公共危険犯としての観点から考えて、それ自体を焼燬することに意味のある物をいい、マッチ棒やごく少量の紙片の如く、他の物体に対する点火の媒介物として用いられていて、それ自体を焼燬することによっては、一般的定型的に公共の危険の発生が予想されないような物は、含まないものと解するのが相当である
- そして右の如く解するならば、本件において被告人が焼燬した新聞紙の如きもその量及び性質から考え刑法第110条にいう「前ニ条に記載したる以外の物」に該当しないこととなるから、その余の点を判断するまでもなく被告人に刑法第110条第1項または第2項の刑責を問う余地はない
と判示しました。
次回の記事に続く
次回の記事では、
『犯人所有する物』・『所有者が放火に承諾した物』・『無主物』に放火した場合は、刑法110条2項の建造物等以外放火罪が成立する
を説明します。