前回の記事の続きです。
犯人所有する物に放火した場合は、刑法110条2項の建造物等以外放火罪が成立する
建造物等以外放火罪の刑法110条2項に規定される「自己の所有に係る」とは、
放火した物件が犯人の所有に係ること
をいいます。
放火した物件が犯人の所有に係る場合は、刑法110条2項の建造物等以外放火罪(1年以下の懲役又は10万円以下の罰金)が成立し、刑法110条1項(1年以上10年以下の懲役)に比べて刑が軽いものとなります。
「所有者が放火に承諾した物」又は「無主物」に放火した場合は、刑法110条2項の建造物等以外放火罪が成立する
所有者が放火に承諾した物に犯人が放火した場合も、刑法110条2項の「放火した物件が犯人の所有に係る場合」に含まれ、刑法110条2項の建造物等以外放火罪が成立するのが相当とされます。
また、だれの所有にも属しない無主物に放火した場合も同様に、刑法110条2項の建造物等以外放火罪が成立するのが相当とされます。
この点は、非現住建造物等放火罪の考え方と同じです(詳しくは前の記事参照)
参考となる裁判例として以下のものがあります。
大阪地裁判決(昭和41年9月19日)
ポリエチレン製ゴミ箱上に捨ててあったハトロン紙5、6枚を焼損した事案について、ハトロン紙の所有権が放棄され、これを焼損しても財産権侵害を理由に刑を加重すべきでないから、犯人所有の物に準じて取り扱うのが相当であるとし、刑法110条2項の建造物等以外放火罪が成立するとしました。
東京高裁判決(昭和61年11月6日)
無主物を客体とする放火は、他人の財産権の侵害を伴わないから、刑法110条1項・2項の立法趣旨に徴しても、自己所有物に対する放火に準じ、2項の罪を構成するにとどまるとし、発泡スチロール、段ボール等の廃棄物は、所有権が放棄されたことによって無主物になったと観念でき、被告人が現場で先占によりその所有権を取得したと同視し得るから、その放火は110条2項をもって問擬(もんぎ)するのが相当と判示した事例です。
裁判官は、
- 放火罪は公共危険罪であって、危険にさらされる公衆の生命・身体・財産が包括的に保護法益とされるのであるが、放火の目的物に関する個人の財産権もまたニ次的にせよ保護法益とされることはいうまでもない
- すなわち、非現住建造物等の放火罪を定めた刑法109条、建造物等以外の物に対する放火罪を定めた刑法110条の各規定に徴し明らかなように、法は、放火の目的物が自己の所有にかかるときは、公共の危険を生じない限り不可罰とし、公共の危険が生じ処罰すべき場合でも、他人の所有にかかる場合に比し格段に軽い法定刑を定めるとともに、同法115条において、他人の財産権の侵害を伴う場合には、自己の所有物に対する放火であってもこれを重く処罰する趣旨を定めているのである
- ところで、無主物に対する放火については、刑法は格別明文を設けていない
- したがって、刑法110条の1、2項の適用に関しては、犯人の自己所有物でない限り一律に同条1項の罪が成立し、無主物の場合も例外ではないと解する余地がないではない
- しかし、無主物を客体とする放火は、他人の財産権の侵害を伴うことはないのであるから、前叙の刑法各条の立法趣旨に徴しても、自己の所有物に対する放火に準じ、同条2項の罪を構成するにとどまると解するのが無理のない解釈というべきであろう
- 本件において、被告人が焼燬した判示の発泡スチロール、段ボール箱等のいわゆる廃棄物(一般に財産的価値に乏しいものの、何人もこれをみだりに捨てることは許されず、法令の定めるところに従って処分する義務を負う特殊な性格を有する。)は、所有者によって不要物として処分されたという点に着目すれば、所有権が放棄されることによって無主の動産になったと観念することもできる
- それ故、右物件に放火した被告人の判示所為は、自己所有物に対する放火に準じ、刑法110条2項の放火罪をもって問擬(もんぎ)するのが相当である
と判示しました。
次回の記事に続く
次回の記事では、
- 公共の危険とは?
- 公共の危険の発生の具体例
を説明します。