延焼罪(刑法111条)を説明します。
延焼罪とは?
延焼罪(刑法111条)は、
「刑法109条2項の非現住建造物等放火罪」又は「刑法110条2項の建造物等以外放火罪」の結果的加重犯であり、各条項の罪を犯して延焼させ、より重い結果を生ぜしめたが、延焼の結果について故意がない場合
に成立する犯罪です。
放火を実行した犯人が、延焼の結果が発生するかもしれないと思っていた場合、延焼罪ではなく、現住建造物等放火罪などが成立する
放火を実行した犯人に、
延焼の結果発生の表象・認容
がある場合は、少なくとも重い結果…つまり、
の未必の故意が認められるので、延焼罪ではなく、①~③のいずれかの罪が成立することになります。
また、上記①~③の重い放火罪を犯し、その結果より軽い放火罪の客体に延焼させた場合には、単に重い放火罪の一罪が成立するのみであり、延焼罪は成立しません。
刑法109条1項の非現住建造物等放火罪を犯し、その結果、刑法108条の現住建造物等放火罪の物件に延焼した場合は、刑法109条1項の非現住建造物等放火罪のみが成立します。
刑法110条1項の建造物等以外放火罪を犯し、その結果、刑法108条の現住建造物等放火罪、又は刑法109条1項の非現住建造物等放火罪の物件に延焼した場合は、刑法110条1項の建造物等以外放火罪のみが成立することになります。
なお、犯人のが所有する自己の森林に放火し、他人の森林に延焼したときは、延焼罪ではなく、森林法違反(森林法202条3項)が成立します。
延焼罪の客体
延焼罪の客体(放火の対象となる物件)は、
又は
です。
延焼罪が成立するためには、火が加重の根拠となる客体に燃え移る以前に、放火の客体の焼損により公共の危険が発生したことを必要とする
延焼罪が成立するためには、火が加重の根拠となる客体に燃え移る以前に、
放火の客体の焼損により公共の危険が発生したこと
を必要とします。
参考となる裁判例として、以下のものがあります。
東京高裁判決(昭和55年12月19日)
放火の客体の焼損による公共の危険の発生を認め、刑法111条2項の延焼罪(刑法110条2項の建造物等以外放火罪(犯人の自己所有物件に対する放火)を犯し、建造物等以外の物件に火を延焼させた)の成立を認めた事例です。
犯人が、自己所有の原付自転車のガソリンタンクからガソリンを地面に流出させてこれに放火し、同車両の機関部等に炎上させてこれを焼損し、このため具体的に公共の危険を生じさせ、さらにその火が近接した家屋の軒先の日よけに燃え移り、その一部を焼損した事案です。
裁判官は、
- 被告人は、自己所有の原動機付自転車のガソリンタンク内から地面に流出させたガソリンに放火し、同車の機関部、サドルシートなどを炎上させてこれを焼燬し、これにより具体的に公共の危険を生じさせて、一階軒先の日よけの一部を独立燃焼させて焼燬延焼させたことが明らかである
- 原判決が 被告人の本件所為を刑法111条2項の延焼罪に問うたのは正当である
と判示し、延焼罪の成立には、放火の客体の焼損による公共の危険の発生が認められることが前提にあることを示しました。
延焼とは?
刑法111条の延焼とは、
犯人が予期しなかった客体に燃え移り、これを焼損する結果を発生すること
をいいます。
このことから、延焼罪が成立するためには、
- 刑法108条の現住建造物等放火罪の物件
又は
- 刑法109条1項の非現住建造物等放火罪の物件
又は
- 刑法110条1項の建造物等以外放火罪の物件
が独立燃焼することを要し、独立に燃焼を維持しうる程度に至らない場合は、単に公共の危険があるにとどまり、延焼罪は成立しません。
結果的加重犯
延焼罪は、結果的加重犯です。
結果的加重犯について、判例は一般的に、行為と重い結果の発生との間に因果関係の存在に加えて、重い結果について過失を必要としています。
延焼罪が成立するためには、放火行為により発生した延焼の結果について予見の可能性があったことを要すると解されています。