これから10回にわたり、放火罪全般の記事を書きます。
刑法112条の放火行為の未遂規定を説明
刑法112条は、放火行為の未遂処罰規定であり、
刑法第108条(現住建造物等放火罪)及び刑法第109条第1項(非現住建造物等放火罪)の罪の未遂は、罰する
と規定します。
放火罪において、未遂犯を罰するのは、
の両規定に該当する行為についてです。
刑法109条2項の非現住建造物等放火罪に未遂規定は適用されない
刑法109条2項の非現住建造物等放火罪(犯人が自己所有する非現住建造物等に対する放火)に未遂規定の適用はありません。
なお、刑法115条の適用(犯人が自己所有する非現住建造物等であっても、賃貸したり、保険に付すなどした物件は他人の物件を焼損したものと見なす)により、刑法109条1項によって処断される自己所有の非現住建造物等に対する放火については、未遂規定が適用されます。
この点を判示した以下の判例があります。
大審院判決(昭和7年6月15日)
火災保険に付した犯人が自己所有する建造物に放火した場合、刑法109条1項の非現住建造物等放火罪が成立し、さらに、火災保険に付した犯人が自己所有する建造物の放火する予備行為を行った場合、刑法109条1項の非現住建造物等放火予備罪(刑法113条)が成立するとした事案です。
裁判官は、
- 自己の所有に係り、現に人の住居に使用せず、又は人の現在せざる建造物にして火災保険に付しあるものに放火したるときは、刑法第115条、第109条1項の罪を構成すべく、従ってその予備行為は同法第113条の罪を構成す
と判示しました。
放火罪の未遂罪、既遂罪、予備罪の区別の考え方
現住建造物等放火罪(刑法108条)と非現住建造物等放火罪(刑法109条1項)は、
が成立する犯罪です。
未遂罪が成立するのか、それとも予備罪が成立するのかの判断基準となるのが
実行の着手があったかどうか
です。
犯罪の成立過程(時系列)は、
決意→実行の着手→実行の終了→結果の発生
の4段階になります。
「実行の着手」または「実行の終了」に至ったが、何らかの事情によって結果が発生しなかった場合、犯罪は『未遂』となります。
結果が発生した場合(放火罪の場合は、建造物等の焼損した場合)、犯罪は『既遂』となります。
予備罪が用意されている犯罪については、「実行の着手」に至っていないが、犯罪の準備行為した場合に予備罪が成立します。
放火予備罪は、例えば、放火の目的でガソリンを用意した段階で成立します。
このように、「実行の着手」と「結果の発生」の概念は、未遂罪、未遂罪、予備罪を分かつポイントになります。
放火罪の実行の着手
放火罪の実行行為は、火を放って目的物を焼損することです。
放火罪の実行の着手は、
火を放つ実行行為(一定の目的物の焼損を生ぜしめる原因を供与する行為)を開始すること
です。
この実行の着手の有無が、未遂罪と予備罪の分かれ目となります。
放火罪の実行の着手の時期一般について、判例は、目的物にであれ、媒介物にであれ、
- 何らかの点火行為がある場合
に実行の着手を認めています。
このほか、点火行為を伴わない場合でも、
- 火源近くでガソリンを撒布する場合
- 時限発火装置を設置する場合
に実行の着手を認めています。
放火罪の実行の着手の態様は、
に分けることができます。
次回の記事に続く
次回の記事では、
放火未遂罪の中止未遂
を説明します。