刑法(放火罪全般)

放火罪全般(4) ~「放火予備罪」を説明~

 前回の記事の続きです。

放火予備罪とは?

 現住建造物(刑法108条)及び自己の所有以外の非現住建造物等(刑法109条1項)への放火は、特にその危険性が大きいことから、放火に使うガソリンを用意するなどの予備行為の段階で、

放火予備罪(刑法113条

が成立し、処罰されます。

 放火予備罪を定めた規定は刑法113条であり、

と規定します。

 条文から読み取れるように、刑法第109条第2項非現住建造物等放火罪(人の自己所有物件に対する放火)は、放火予備罪の対象になりません。

 

刑法115条(犯人が自己所有する非現住建造物等であっても、賃貸したり、保険に付すなどした物件は他人の物件を焼損したものと見なす)との関係

 刑法115条の適用(犯人が自己所有する非現住建造物等であっても、賃貸したり、保険に付すなどした物件は他人の物件を焼損したものと見なす)により、刑法109条1項によって処断されることになる自己所有建造物等に対する放火の予備行為については、放火予備罪(刑法113条)の処罰の対象になります。

 参考となる以下の判例があります。

大審院判決(昭和7年6月15日)

 火災保険に付した犯人が自己所有する建造物に放火した場合、刑法109条1項の非現住建造物等放火罪が成立し、さらに、火災保険に付した犯人が自己所有する建造物の放火する予備行為を行った場合、放火予備罪(刑法113条)が成立するとした事案です。

 裁判官は、

  • 自己の所有に係り、現に人の住居に使用せず、又は人の現在せざる建造物にして火災保険に付しあるものに放火したるときは、刑法第115条第109条1項の罪を構成すべく、従ってその予備行為は同法第113条の罪を構成す

と判示しました。

破壊活動防止法39条との関係

 破壊活動防止法39条は、刑法113条の特別規定として、

  • 政治上の主義若しくは施策を推進し、支持し、又はこれに反対する目的をもって、刑法108条刑法109条1項の罪の予備をなした者を5年以下の懲役、禁錮に処する

として、刑法113条の放火予備罪の刑を加重する規定です。

 破壊活動防止法39条に該当するものについては、刑法113条の適用はなく、刑の免除も行われません。

放火予備罪の成立要件

 放火予備罪(刑法113条)は、

「放火の実行の意思」と「その意思を実行に移す準備行為としての外部的行動」

とにより成立します。

 準備行為は、実行の着手に至る以前の行為を指します(放火罪の実行の着手の説明は前の記事参照)。

 準備行為とは、例えば、

  • 点火材料の準備
  • 事前の発火装置の作成
  • これらを携帯した上で放火目的物の所在地まで赴く行為

などが該当します。

 予備行為をした者が、さらに進んで放火の実行に着手したときは、放火予備罪は、放火罪の既遂又は未遂に吸収されます。

放火予備罪の成立を認めた裁判例

 放火罪の予備の成立を認めた裁判例として、以下のものがあります。

朝鮮高等法院判決(昭和6年4月23日)

 放火目的でマッチをにして被害者の居住する村に赴き、目的家屋の発見に努めたが発見できず、空しく帰宅した事例で、放火予備罪の成立を認めました。

東京高裁判決(昭和44年7月9日)

 同僚が逮捕された鬱憤を晴らすため、派出所に火炎びんを投げ込んで火災を発生させ、派出所を襲撃しようと企て、被告人9名がガソリン約500cc入りと同約330cc入りのビールびん2本に布で栓をしたものなどを分け持ち・ビールびんの布にマッチ等で点火して交番に投げ込むなどの手はずを示し合わせ、派出所を約10メートル下に見下ろす地点に集まり、そこから派出所内の様子をうかがったなどの事情がある場合には、放火の準備行為が物的にも行動的にも外部に表出されたといえるとして、放火予備罪の成立を認めました。

東京高裁判決(昭和49年3月27日)

 機動隊隊舎を放火するため火炎びん4本をバッグに入れ隊舎正門付近に至り、機動隊員がいたため、正門の50メートル手前から火災びんを機動隊員目掛けて投げたが、14 .5メートル先に落下し発火しなかった事例で、放火予備罪の成立を認めました。

放火予備罪の共犯(共同正犯)

 点火材料を共に準備するなど予備行為に共同加功した場合には、放火予備罪の共犯(共同正犯)が成立します。

 参考となる以下の判例があります。

最高裁決定(昭和37年11月8日)

 殺人の目的を有する者から、これに使用する毒物の入手を依頼され、その使途を認識しながら、右毒物を入手して依頼者に手交した者は、右毒物による殺人が予備に終った場合に、殺人予備罪の共同正犯としての責任を負うものと解すべきであるとしました。

凶器準備集合罪との関係

 凶器準備集合罪刑法208条の2第1項)と放火予備罪とは観念的競合の関係になります。

 参考となる以下の判例があります。

東京高裁判決(昭和49年3月27日)

 機動隊隊舎に放火する意思で、喫茶店に火炎びんを携帯して集合した事案につき、右集合の時点で放火の意思を実行に移す準備としての外部的行動があったと認められ、放火予備が開始されたといえるから、凶器準備集合罪と放火予備罪とは観念的競合の関係にあるとしました。

次回の記事に続く

 次回の記事では、

放火の罪・失火の罪の類別、性格、保護法益

を説明します。

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