これから5回にわたり失火罪(刑法116条)を説明します。
失火罪とは?
失火罪(刑法116条)は、
過失による出火を処罰するもので、現住建造物等放火罪(刑法108条)、非現住建造物等放火罪(刑法109条)、建造物等以外放火罪(刑法110条)に対応する過失犯の規定
です。
失火罪は、刑法116条において、
- 失火により、第108条に規定する物又は他人の所有に係る第109条に規定する物を焼損した者は、50万円以下の罰金に処する
- 失火により、第109条に規定する物であって自己の所有に係るもの又は第110条に規定する物を焼損し、よって公共の危険を生じさせた者も、前項と同様とする
と規定されます。
刑法116条1項は、
刑法108条(現住建造物等放火罪)記載物件、又は他人所有の刑法109条(非現住建造物等放火罪)記載物件を焼損した場合で、いわゆる抽象的危険犯
です。
刑法116条2項は、
自己所有の刑法109条(非現住建造物等放火罪)記載物件、又は刑法110条(建造物等以外放火罪)記載物件を焼損した場合で、さらに公共の危険の発生を要件としているので、具体的公共危険犯
です。
失火罪の主体(犯人)
失火罪の主体(犯人)に制限はありません。
失火罪の客体
刑法116条1項の失火罪の客体
- 刑法108条(現住建造物等放火罪)に記載された現住建造物、汽車、電車、艦船、鉱坑(つまり、刑法108条の客体)
又は
- 他人の所有する(犯人の自己所有ではない)刑法109条(非現住建造物等放火罪)に記載された非現住建造物、艦船、鉱坑(つまり、刑法109条の客体)
です。
※ 刑法109条の客体の説明は、前の記事参照
刑法116条1項の失火罪の客体に関する判例として以下のものがあります。
大審院判決(昭和2年5月30日)
麦わら葺の屋根があり、6個の柱材により支持され、土地に定着し、人の起居出入し得る内部のある籠堂は、周壁及び天井がなくとも刑法109条の建造物に該当するから、被告人らが失火によりこれを焼損した以上、失火罪の責任を免れないとしました。
刑法116条2項の失火罪の客体
刑法116条2項の客体は、
- 犯人が自己の所有する刑法109条(非現住建造物等放火罪)に記載された非現住建造物、艦船、鉱坑
又は
- 刑法110条(建造物等以外放火罪)に記載された物
です。
例えば、
- 自動車
- 航空機
- 人の現在しない汽車・電車
- 建造物とはいえない門・塀
- 家屋内の建具・畳
などが該当します。
失火により焼損した物が刑法115条所定の物件であった場合
失火により焼損した物が刑法115条所定の物件であった場合(例えば、失火により保険に付された犯人が自己所有する非現住建造物を焼損した場合)に、刑法116条1項が適用されるのか、刑法116条2項が適用されるのかという問題があります。
この点、判例は不見当ですが、学説では、刑法116条1項の適用を肯定してよいとされます。
次回の記事に続く
次回の記事では
- 失火罪の成立時期
- 失火罪における過失の定義
- 不作為による失火罪
- 罪数
などを説明します。