刑法(総論)

故意犯・過失犯とは? ~「故意犯との違い」「注意義務違反」「結果の予見可能性・回避可能性」を解説~

 今回は、過失犯について解説します。

 まずは、過失犯を故意犯と比較して説明します。

過失犯の特徴

 犯罪は、故意犯と過失犯に分かれます。

 故意犯の例は、窃盗罪、傷害罪です。

 過失犯の例は、過失運転致傷罪、過失傷害罪です。

 刑罰法令は、故意犯を原則としており、過失犯は例外的に規定しています。

 故意犯は、「~してはならない」という規範(ルール)があることを認識・容認した上で、あえて規範(ルール)を破って犯罪行為に出るところに強く非難すべき点があります。

 そのため、刑罰法令は、故意犯を厳しく取り締まるのです。

 これに対し、過失犯は、不注意により犯罪事実を認識・容認せずに、権利侵害を引き起こすものであり、非難はされるものの、非難の程度は、故意犯より軽くなります。

 現に、傷害罪の法定刑は、15年以下の懲役または50万円罰金ですが、過失傷害罪の法定刑は、傷害罪よりもかなり軽く、30万円以下の罰金または科料になっています。

 まとめると、

  • 過失犯は例外的に法律に規定されており、比較的重大な数種類の犯罪に限られる
  • しかも、刑罰の重さは、故意犯に比べると、かなり軽く設定されている

という特徴があります。

過失犯の例

 過失犯の例は、

です。

過失犯の成立条件

 過失の成立条件は、

  • 犯罪事実を認識・容認しないこと(犯罪事実の認識・容認の欠如)
  • 注意義務に違反すること

の2つの条件がそろうことです。

「犯罪事実の認識・容認の欠如」について

 犯罪事実の認識・容認の欠如は、

  • 認識のない過失
  • 認識のある過失

に分けられます。

 認識のない過失とは、

不注意により、犯罪事実を全く認識しなかった場合の過失

をいいます。

 たとえば、

ランニングをしているときに、全く予期せずに人にぶつかってしまい、ケガをさせてしまった(過失傷害罪)…

という場合は、認識のない過失となります。

 認識のある過失とは、

犯罪事実を認識したが、不注意により、結果の発生を認容しなかった場合の過失

をいいます。

 たとえば、

狭い道路を車で走行中、前にいた歩行者を追い抜くにあたり、「自分の運転技術ならぶつかることはない」と思い、追い抜きをしたが、車を歩行者に衝突させてケガをさせた(過失運転致傷罪)…

という場合は、認識のある過失となります。

「注意義務違反(不注意)」について

 過失があるというためには、犯罪事実の認識・容認の欠如だけでは足りず、注意義務違反(不注意)も必要になります。

 注意義務は、

  • 結果予見義務
  • 結果回避義務

の2点で構成されます。

 結果予見義務とは、

結果の発生を認識・予見すべき義務

をいいます。

 結果回避義務は、

結果発生の認識・予見に基づいて、結果の発生を回避すべき義務

をいいます。

注意義務の成立要件

 注意義務が成立するためには、

結果の予見可能性

結果の回避可能性

の両方が必要になります。

 これは、結果の「予見可能性」と「回避可能性」がないのに、人に過失犯の刑事責任を問うのは酷だからです。

 たとえば、車を法定速度で運転中、子供が急に飛び出してきたため、衝突を避けるのは不可能だったという状況であれば、結果の「予見可能性」と「回避可能性」があったとはいえず、過失犯(過失運転致傷罪)は成立しません。

 法律は、人に不可能を強いてはいないのです。

 つまり、注意義務違反は、

  • 結果発生の認識・予見が可能であったにもかかわらず予見しなかった

かつ

  • 結果回避の可能性があったにもかかわらず回避しなかった

ときに成立します。

 結果の「予見可能性」と「回避可能性」があったかどうかの判断基準は、一般通常人の判断能力が基準とされます。

 過失犯を犯した行為者の注意能力を基準とはしません。

 たとえば、

  • 運動神経が良い若者が交通事故を起こせば、結果の「予見可能性」と「回避可能性」が認められやすい
  • 運動神経が鈍い高齢者が交通事故を起こせば、結果の「予見可能性」と「回避可能性」が認められにくい

という差別的な取り扱いはしません。

 これは、法律が、社会の通常一般人を対象としたルールになっているからです。

過失犯に未遂犯は存在しない

 過失犯の未遂は、法律に規定されておらず、存在しません。

 これは、過失犯は、一定の結果が発生して初めて刑事責任が問われるものだからです。

 過失犯は、結果が発生しなければ、刑事責任を問われることはありません。

 よって、過失犯に未遂の規定はないのです。

まとめ

 今回の記事をまとめます。

  • 過失犯は、故意犯と違い、例外として規定されている
  • 過失犯は、故意犯より、刑罰が軽い
  • 過失犯の成立条件は、「犯罪事実の認識・容認の欠如」と「注意義務違反」である
  • 「注意義務違反」があるとするためには、結果の「予見可能性」と「回避可能性」があったことが必要である
  • 過失犯に未遂はない

となります。

次回

 次回は、「信頼の原則」について書きます。

 「信頼の原則」とは、行為者がある行為をなすに当たって、相手が適切な行動をとると信頼できる場合に、相手の不適切な行動により結果が生じても、行為者に対して、過失犯の刑事責任は問えない…という原則のことをいいます。

 相手が適切な行動をとると信頼できる場合でも、過失犯が成立するかどうかについて説明します。

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  1. 過失犯とは? ~「故意犯との違い」「注意義務違反」「結果の予見可能性・回避可能性」を解説~
  2. 信頼の原則とは? ~過失犯との関係を判例で解説~
  3. 監督過失とは? ~判例で解説~

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