刑法(証拠隠滅罪)

証拠隠滅罪(1) ~「証拠隠滅罪とは?」「保護法益」などを説明~

 これから17回にわたり、証拠隠滅罪(刑法104条)を説明します。

証拠隠滅罪とは?

 証拠隠滅罪は、刑法104条に規定があり、

他人の刑事事件に関する証拠を隠滅し、偽造し、若しくは変造し、又は偽造若しくは変造の証拠を使用した者は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する

と規定されます。

保護法益

 保護法益は、

刑事司法作用の保護

です。

 証拠隠滅罪(刑法104条)の趣旨について、判例(最高裁決定 昭和36年8月17日)は、

「犯罪者に対する司法権の行動を阻害する行為を禁止しようとする法意に出ているもの」

としています。

 刑事司法作用の保護を法益とする点では犯人蔵匿罪・犯人隠避罪刑法103条)と同様ですが、保護の客体は刑法103条より狭く、刑事事件の捜査・審判に限られます。

証拠隠滅罪の特別刑法の規定

 証拠隠滅罪の特別刑法として、

があります。

国外犯は処罰されない

 証拠隠滅罪は国外犯の適用がありません(刑法3条4条4条の2)。

 証拠隠滅罪で、国内犯か国外犯が争点となった以下の裁判例があります。

仙台地裁気仙沼支部(平成3年7月25日)

 遠洋漁業中の日本国籍漁船内において傷害致死事件が発生し、漁労長が犯人の依頼を受けて、船長と共謀の上、過失による死亡事故である旨の虚偽の死亡事故発生報告書と図面を作成し、外国の事務所からこれらを海上保安部宛にファクシミリ送信したという事案で、偽造証拠使用罪の実行行為は国外で行われたが、その犯罪行為の一部である謀議行為が国内たる日本船内でなされている以上、国内犯に当たるとした事例です。

 裁判所は、

  • 被告人の証拠偽造と偽造証拠行使との間には手段結果の関係があるので、これは、刑法54条1項後段牽連犯であるが、牽連犯にあっても、その牽連犯関係にある個々の行為につき各別にその犯罪成立要件の全部を充足していることを要する
  • ところが、日本人が日本国籍を有する船舶内で実行した偽造証拠行使行為については、刑法1条2項により日本国刑法が適用されるのに対し、日本人が日本国籍を有する船舶又は航空機の外にある外国領土内で実行した偽造証拠行使行為について日本国刑法を適用する規定は存在しない
  • しかし、偽造証拠行使行為の一部が日本国籍を有する船舶内で実行された場合には、その行為の全体について日本国刑法が適用されると解する
  • 被告人は、日本国籍を有する船舶第八富山丸の外の外国領土に属するフランス共和国領タヒチ島パペーテにおいて、偽造した証憑を写真電送して行使したものであるが、この送信行為は、Aと共謀のうえなされたものである
  • したがって、犯罪行為の一部である共謀が第八富山丸の船内でなされたのである以上、その行為の全体について、日本国刑法の適用があり、本件については、偽造証拠行使、証拠隠滅罪が成立する

と判示しました。

自己の刑事事件について、被疑者・被告人自身は証拠隠滅罪の主体にならない

 刑法104条の「他人の刑事事件」という法文から明らかなとおり、自己の刑事事件について、被疑者・被告人自身は証拠隠滅罪の主体になり得ません。

 判例(大審院判決 昭和10年9月28日)は、自己の刑事被告事件に関する証拠隠滅等の行為を不処罰とする理由について、

  • 犯人自ら為したる証拠隠滅の行為を罰すべしと為すは、人情にもとり被告人の刑事訴訟における防御の地位と相容れざるものありとし、刑事政策上、これに可罰性を認ざるものに係る

としています。

 被疑者・被告人自身が自己の犯罪の証拠を隠滅することは人情であり、法律で罪に問うところではないという理解になります。

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