刑法(威力業務妨害罪)

威力業務妨害罪(16) ~「公務執行妨害罪との関係」を説明~

 前回の記事の続きです。

威力業務妨害罪と公務執行妨害罪との関係

 威力業務妨害(刑法234条)において、「業務」とは、

人が(職業その他)社会生活上の地位に基づいて継続して行う事務(又は事業、仕事)

をいいます。

 その字義どおりの解釈からすれば、「公務」が「業務」に含まれることは当然です。

 しかし、公務に対する妨害については別に公務執行妨害罪刑法95条1項)の規定があることから、「公務妨害事犯に威力業務妨害罪(刑法234条)の適用があるか否か」の観点から、「公務」と「業務」の関係が問題となります。

 具体的には、「公務」は「業務」に含まれるか否か、公務員の業務を妨害した場合、公務執行妨害罪ではなく、業務妨害罪の成立を認めることができるのかが裁判において争点となることがあります。

 この問題については、判例を参考にして理解を深めることが有用です。

 参考となる判例として以下のものがあります。

最高裁決定(昭和62年3月12日)

 県議会の建物に進入し、委員会室に多数で乱入して、条例案の審議採決を妨害したという事案です。

 裁判官は、

  • 本件において、妨害の対象となった職務は、新潟県議会総務文教委員会の条例案採決等の事務であり、なんら被告人に対して強制力を行使する権力的公務ではないのであるから、右職務が威力業務妨害罪にいう「業務」に当たるとした原判断(※二審の高裁の判断)は、正当である

と判示し、建造物侵入罪と威力業務妨害罪刑法234条)の成立を認めました。

 この判例は、公務が業務妨害罪によって保護されるか否かのメルクマールは、公務が権力的公務か否かであり、権力的公務とは「強制力を行使する」公務であるととを明らかにした点が注目されます。

 権力的公務の例として、警察官の犯人逮捕などのように強制力の行使を伴う公務が該当します。

 これ対して、強制力を伴わない公務を非権力的公務といいます。

 この判例の考え方に基づけば、権力的公務を妨害すれば、公務執行妨害罪が成立し、非権力的公務を妨害すれば、業務妨害罪が成立するという考え方になります。

 同様の趣旨の判例として、以下のものがあります。

最高裁決定(平成12年2月17日)

 町長選挙と衆議院議員総選挙における立候補届出の受理業務が、業務妨害罪における「業務」に該当するとし、業務妨害罪が成立するとした事例です。

 裁判官は、

  • 本件において妨害の対象となった職務は、公職選挙法上の選挙長の立候補届出受理事務であり、右事務は、強制力を行使する権力的公務ではないから、右事務が刑法233条234条にいう「業務」に当たるとした原判断は、正当である

と判示しました。

東京高裁判決(平成10年11月27日)

 東京都の業務である駅地下通路の「動く歩道」設置工事に先立ち実施した路上生活者の段ボール小屋撤去作業について、業務妨害罪の業務に当たるとし、業務妨害罪が成立するとしました。

 また、最近の裁判例で、参考となる事例として、以下のものがあります。

東京高裁判決(平成21年3月12日)

 警察に対して犯罪予告の虚偽通報をし、警察の業務を妨害した行為について、偽計業務妨害罪の成立を認めた事例です。

 裁判官は、

  • 最近の最高裁判例において 、強制力を行使する権力的公務が本罪(刑法233条の業務妨害罪)にいう業務に当たらないとされているのは、暴行・脅迫に至らない程度の威力や偽計による妨害行為は強制力によって排除し得るからなのである
  • 本件のように、警察に対して犯罪予告の虚偽通報がなされた場合(インターネット掲示板を通じての間接的通報も直接的110番通報と同視できる。)、警察においては、直ちにその虚偽であることを看破できない限りは、これに対応する徒労の出動・警戒を余儀なくさせられるのであり、その結果として、虚偽通報さえなければ遂行されたはずの本来の警察の公務(業務)が妨害される(遂行が困難ならしめられる)のである
  • 妨害された本来の警察の公務の中に、仮に逮捕状による逮捕等の強制力を付与された権力的公務が含まれていたとしても、その強制力は、本件のような虚偽通報による妨害行為に対して行使し得る段階にはなく、このような妨害行為を排除する働きを有しないのである
  • したがって、本件において、妨害された警察の公務(業務)は、強制力を付与された権力的なものを含めて、その全体が、本罪(刑法233条の業務妨害罪)による保護の対象になると解するのが相当である

と判示し、偽計業務妨害罪が成立するとしました。

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