刑法(逮捕・監禁罪)

逮捕・監禁罪(31) ~「逮捕罪・監禁罪と暴行罪・脅迫罪・暴力行為等処罰に関する法律違反との関係」を説明~

 前回の記事の続きです。

暴行罪・脅迫罪・暴力行為等処罰に関する法律違反との関係

 逮捕罪・監禁罪(刑法220条

との関係を説明します。

1⃣ 逮捕・監禁の手段として行われた暴行・脅迫は、逮捕罪・監禁罪に吸収され、暴行罪・脅迫罪を構成しません。

 また、逮捕・監禁の手段として行われた暴力行為等処罰に関する法律1条所定の暴行・脅迫も、逮捕罪・監禁罪に吸収され、暴力行為等処罰に関する法律違反(同法律1条違反)を構成しません。 

 この点を判示したのが以下の以下の判例です。

大審院判決(昭和11年5月30日)

 裁判所は、

  • 脅迫は監禁罪自体の手段として、監禁罪中に包摂されるものであり、別に脅迫罪を構成しない

と判示しました。

最高裁決定(昭和42年4月27日)

 裁判所は、

  • 監禁罪は、その手段として行なわれた暴行や脅迫をその中に吸収し、別罪の成立を否定するものであるから、監禁罪の手段として行なわれた暴力行為等処罰に関する法律1条所定の暴行脅迫も、監禁罪に吸収され、それと別個に暴力行為等処罰に関する法律1条違反の罪を構成するものではないと解するのが相当である

と判示しまし、監禁罪の手段として行われた暴力行為処罰法1条の脅迫は監禁罪に吸収され、監禁罪のみが成立するとしました。

2⃣ 逮捕・監禁が未遂に終わった場合は、未遂を処罰する規定がないので、暴行罪、脅迫罪が成立します。

3⃣ 暴行・脅迫が監禁の機会になされても、監禁の状態を維持存続させるための手段としてではなく、全く別の動機から行われたときは、監禁罪のほかに暴行罪、脅迫罪が成立します。

最高裁判決(昭和28年11月27日)

 この判例は、監禁中の被害者の言動に憤激して暴行脅迫を加えた事案で、監禁罪、暴行罪、脅迫罪を併合罪としました。

 まず、弁護人は

  • 本件被告人らの暴行脅迫の所為は、不法監禁罪の手段としてなされたものであるから、暴行脅迫罪は当然に不法監禁罪に吸収せられ、不法監禁の一罪のみが成立すべきものであって、不法監禁罪の他に更に暴行脅迫罪の成立する余地がない

と主張しました。

 この主張に対し、裁判官は、

  • 被告人らの暴行脅迫の行為は、たまたたOの監禁中又はO及びPの監禁中に行われたものではあるけれども、右各行為は、O、Pらの逃亡を防ぐ手段としてなされた如き不法監禁の状態を維持存続させるために行われたものではないのであって、右両名の被告人らに対してなした詐欺的欺瞞的言動に憤慨、憤激のあまり、行われたものであることが認められるから、たとえ、被告人らの暴行脅迫の行為が不法監禁の機会になされたからといって、不法監禁のために、その手段としてなされたものということはできない

と判示し、暴行脅迫は、監禁自体の手段としてなされたものではないので、暴行罪・脅迫罪は監禁罪に吸収されず、暴行罪、脅迫罪、監禁罪がそれぞれ成立し、各罪は併合罪になるとしました。

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