前回の記事の続きです。
殺人罪、強盗罪、不同意わいせつ罪・不同意性交等罪との関係
逮捕罪・監禁罪(刑法220条)
との関係を説明します。
逮捕監禁が、
- 殺人行為
- 強盗行為
- 不同意わいせつ、不同意性交行為
の一部とみられる場合、たとえば、
- 殺人でいえば、人を殺害する意図で、この者を布団でくるみ、その上をロープで厳重に縛って放置して窒息死させたような場合
- 強制わいせつでいえば、被害者の身体を押さえ込んで陰部に触れるなどした場合
などは、殺人罪、強盗罪、不同意わいせつ罪・不同意性交等罪のみが成立し、別に逮捕罪・監禁罪は成立しません。
しかし、例えば、人を殺害する意図で、まずこの者を監禁し、その後これを射殺した場合など
- 殺人、強盗、不同意わいせつ・不同意性交の手段として用いられた逮捕監禁行為であっても、殺人行為、強盗行為、不同意わいせつ・不同意性交行為の一部とみられない場合
- 逮捕監禁行為の継続中に、新たに生じた犯意に基づく殺人、強盗、不同意わいせつ・不同意性交の場合
には、殺人罪、強盗罪、不同意わいせつ罪、不同意性交行等罪のほかに、逮捕罪・監禁罪が成立し、両罪の関係は併合罪の関係となります。
(なお、この場合も、1個の行為とみるのが相当であって、観念的競合を認めるのが相当という場合もあり得ます)
もっとも、逮捕監禁行為が殺人行為等の一部とみられる場合であっても、逮捕監禁行為の時間も長く、社会通念上、殺人行為等だけでは評価し尽くされないと認められる場合には、別に逮捕罪・監禁罪が成立し、殺人罪等とは観念的競合の関係にあると解すべきとされます。
① 逮捕監禁罪と殺人罪の関係を判示した判例
逮捕監禁罪と殺人罪の関係を判示した判例として、以下のものがあります。
逮捕監禁行為が殺人の手段たる行為であっても、逮捕監禁行為自体によって殺害する場合でなければ、逮捕監禁行為を殺人罪の実行行為の一部とみるのは相当でなく、それ以外の場合には、殺人罪と逮捕監禁罪とが成立し、両罪は併合罪であるとしました。
裁判所は、
- 被告人Kは、逮捕監禁に及ぶ以前に殺意を固めていたとはいえ、逮捕監禁行為自体によりNを殺害しようとしたものではなく、後の別個の殺害行為を予定して、まず逮捕監禁に及んだとされているのであるから、逮捕監禁の事実を殺人の実行行為の一部とみるのは相当でなく、右認定事実を前提とすれば、被告人Kについては逮捕監禁罪と殺人罪が共に成立し、両罪は併合罪であると解するのが相当である
と判示しました。
② 逮捕監禁罪と強盗罪の関係を判示した裁判例
逮捕監禁罪と強盗罪の関係を判示した裁判例として、以下のものがあります。
東京高裁判決(昭和37年12月26日)
裁判所は、
- 被告人らは被害者を監禁し、これに暴行脅迫を加えて金員を強取しようと企て、被害者より金品を強取し、かつ監禁したというのであって、強盗のためになされた暴行脅迫と不法監禁のためになされた暴行脅迫とは、全く別個のものと認められないことはないから、不法監禁罪は強盗罪とは別個の犯罪を構成するといわなければならない
- また、強盗をなすために、あらかじめ不法監禁をすることが強盗に直接かつ必要な手段として普通用いられる行為とも認められないので、不法監禁と強盗とは全然別個独立の犯罪として成立するものというべく、牽連犯をもって律すべき場合でもない
とし、監禁罪と強盗罪は併合罪となり、手段と結果の関係にある牽連犯にはならないことを示しました。
③ 監禁罪と不同意性交等罪の関係を判示した判例
判例(最高裁判決 昭和24年7月12日)は、監禁罪と不同意性交等罪を手段と結果の関係にあるとして牽連犯を適用することに制限的であり、両罪を併合罪とする立場をとっています。
また、犯意の発生時期・行為態様等を検討し、監禁と不同意性交の実行行為が重なり合う場合には、両罪は観念的競合であるとし、そうでない場合には、両罪は併合罪であるとする判例・裁判例の傾向が見られます。
1⃣ 監禁罪と不同意性交等罪が併合罪の関係になるとした以下の判例があります。
裁判官は、
- 刑法第54条にいわゆる犯罪の手段とは、ある犯罪の性質上、その手段として普通に用いられる行為をいうのであり、また犯罪の結果とはある犯罪より生ずる当然の結果を指すと解すべきものであるから、牽連犯たるにはある犯罪と、手段若くは結果たる犯罪との旨に密接な因果関係のある場合でなければならない
- 従って、犯人が現実に犯した二罪がたまたま手段結果の関係にあるだけでは牽連犯とはいい得ない
- そして、本件の不法監禁罪と、強姦致傷罪(現行法:強制性交等罪)とは、たまたま手段結果の関係にあるが、通常の場合においては、不法監禁罪は通常強姦罪の手段であるとはいえないから、被告人らの犯した不法監禁罪と強姦致傷罪(現行法:強制性交等罪)は、牽連犯ではない
- 従って、右二罪を併合罪として処断した原判決は、法令の適用を誤ったものではない
と判示し、監禁罪と強制性交等罪(現行罪名:不同意性交等罪)とは、通常は手段と結果の関係にないので、牽連犯にならず、併合罪になるとしました。
仙台高裁判決(昭和40年4月8日)
この判例は、婦女を不法監禁し、その継続中に強姦の犯意を生じて実行された場合も、両者は強姦実行の時点でたまたま重なり合うにすぎないから、1個の行為ではなく、別個独立の2個の行為と解すべきであり、右不法監禁行為と強姦行為(現行罪名:不同意性交等罪)とは想像的競合(※観念的競合のこと)の関係にあるのではなく、併合罪の関係にあるものというべきであるとしました。
2⃣ 監禁罪と不同意性交等罪が観念的競合の関係になるとした以下のがあります。
広島地裁判決(昭和52年5月30日)
通行中の女性を無理やり自動車に押し込んで、車を走行させて、自動車内で強姦した事案です。
裁判所は、被告人らが被害者を強引に後部座席に座らせた時点において既に強姦の実行の着手があったものと認め、かつ強姦行為の終了とほぼ同時に監禁行為も終了しているとして、
- 本件強姦致傷と監禁は行為の主体客体ともに同一人であり、かつ犯行の着手、終了の全過程において時間的、場所的に完全に合致するところから、文字通り自然的観察のもとにおいても社会通念上「一個の行為」によって実現されたものといわなければならない
として、監禁罪と強姦罪(現行罪名:不同意性交等罪)が観念的競合の関係にあるとしました。