刑法(逮捕監禁致死傷罪)

逮捕監禁致死傷罪(2) ~「逮捕監禁致死傷罪の成立要件」「殺人罪が成立する場合には、逮捕監禁致死罪は成立しない」を説明~

 前回の記事の続きです。

逮捕監禁致死傷罪の成立要件

 逮捕監禁致死傷罪(刑法221条)が成立するための要件は、

  • 逮捕監禁罪(刑法220条)が成立すること
  • 逮捕監禁の行為と人の死傷との間に因果関係が存在すること

です。 

逮捕監禁罪が成立しなければ、逮捕監禁致死罪は成立しない

 逮捕監禁致死罪が成立するためには、まず、逮捕監禁罪(刑法220条)が成立していることが必要です。

 つまり、逮捕監禁行為に着手したが、逮捕監禁が未遂に終わった場合は、逮捕監禁致死罪の成立を認めることはできません。

適法な逮捕監禁行為であれば、逮捕監禁致死罪は成立しない

 適法な逮捕監禁行為の結果、人を死傷に致した場合は、逮捕監禁致死罪は成立しません。

 ただし、適法な逮捕監禁行為(例えば、通常逮捕)でも、人の死傷の結果に過失があれば、過失傷害罪刑法209条)、過失致死罪刑法210条)が成立することがあります。

 なお、適法な逮捕監禁行為でも、その際、逮捕に伴うものと認められるもの以外の暴行を加えた場合には、暴行罪(刑法208条)や傷害罪(刑法204条)が成立します。

 参考となる裁判例として、以下のものがあります。

東京地裁判決(昭和56年7月1日)

 錯乱状態に陥りホテル内で自傷他害行為を繰り返していた者を取り押さえ、手足をひもでしばるなどして乗用車に乗せて連行した上、更に暴れる同人を押さえ付けるなどした結果、同人が死亡した事案につき、逮捕致死罪の成立を否定した事例です。

 裁判所は、

  • 被告人らの本件行為は、覚せい剤の影響により錯乱状態に陥り、ホテル内で自傷他害行為を繰り返していたDを保護する目的で、かつ相当性の範囲を逸脱したとまでは言えない範囲内の方法で行われたものであるから、全体としていまだ社会的に容された範囲内の行為と見られ、実質的違法性を欠くものと認めるのが相当である
  • 被告人らの本件行為は、形式的には逮捕罪にいう不法な逮捕行為に当たっているように見える部分があるものの、右行為前後の状況に照らし実質的違法性を欠くものと認められるのであるから、前提となるべき同罪が成立しない以上、Dの死亡との因果関係の有無いかんにかかわらず、被告人らにつき逮捕致死罪が成立しないことは明らかである

と判示し、逮捕致死罪の成立を否定し、無罪を言い渡しました。

殺人罪が成立する場合には、逮捕監禁致死罪は成立しない

 犯行時、犯人に傷害の結果について認識があることは逮捕監禁致死傷罪の成否に影響しませんが、死の結果について、死の結果の認識があれる場合は(殺人の故意がある場合は)殺人罪となり、逮捕監禁致死罪は成立しません。

 この点を判示した以下の判例があります。

大審院判決(大正9年2月16日)

 裁判所は、

  • 被告らは、殺意をもって被害者を制縛監禁し、よって、その予見したる死の結果生ぜしめ足るときは、制縛監禁は殺人の手段たる行為にして、該行為は、殺人の意思の決定ありたる時期の前後にまたがり遂行せられたるときといえども、元来、1個の行為に過ぎざれば、包括的にこれを観察し、殺人罪に対する手段たる1個の制縛監禁の行為と認るのを相当とす
  • 本件被告らの行為は、単一の殺人罪をもって論ずべきものにして、別に制縛監禁の点に対し、刑法221条等を適用すべきものにあらず
  • これ殺意をもって人を傷害したるときは、単一の殺人罪をもって処罰すべく、別に傷害罪に問擬(もんぎ)すべきものにあらざると同一なりとす

と判示し、殺人罪と逮捕監禁致死罪は同時に成立することはなく、殺人罪のみが成立するとしました。

次の記事へ

逮捕監禁罪、逮捕監禁致死傷罪の記事一覧