刑法(凶器準備集合・結集罪)

凶器準備集合・結集罪(5) ~ 凶器準備集合罪④「自ら共同加害行為を行う意欲を有しなくても、凶器準備集合罪の成立が認められる」を説明

 前回の記事の続きです。

自ら共同加害行為を行う意欲を有しなくても、凶器準備集合罪の成立が認められる

 凶器準備集合罪は、刑法208条の2第1項で、

2人以上の者が他人の生命、身体又は財産に対し共同して害を加える目的で集合した場合において、凶器を準備して又はその準備があることを知って集合した者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する

と規定されます。

 この記事では、条文中にある「共同して害を加える」に関し、「自ら共同加害行為を行う意欲を有することが必要か」について説明します。

 共同加害行為目的の集まりであることを認識しながら、これに加わるものの、自らは直接加害行為に及ぶ意欲のない者に対し、その者に「共同加害の目的」ありと解して、凶器準備集合罪の成立を認めることができるか、という問題があります。

 この問題に対しては、凶器準備集合罪の成立を認めることができると解する見解が有力です。

 理由として、

  • 二人以上の者の共同実行目的がある場合に、目的の加害行為には共謀共同正犯として参加する意思で凶器を準備する等して集合した者について、凶器準備集合罪が成立しないとする理由は特段見出し難い
  • 集団による加害行為が開始された場合に、自らは後方でこれを指揮する意思で集合する者や、負傷者の救護や凶器の運搬等を行う意思で集合する者について、これを不可罰とするのは、法の目的に沿わない
  • 戦闘的・組織的集団であればあるほど、このような役割分担がなされるのが当然である

といったことが挙げられます。

 このような理由から、目的である加害行為が実行される場合に、自ら凶器をもって実行行為(加害行為)を担う意思までを要するものではなく、共同加害行為体の一員として集合すれば、凶器準備集合罪が成立するとと解するのが正当とされます。

裁判例

 自ら共同加害行為を行う意欲を有しなくても、凶器準備集合罪の成立が認められることを示した裁判例として、以下ものがあります。

大阪高裁判決(昭和46年4月26日)

 裁判所は、

  • 集団員の多数が予想される機動隊の阻止に対抗しこれに攻撃を加えるため角材を携え石塊を持つ等凶器を準備していることを認識しながら、これに気勢をそえる目的で角材を携えてその集団に加わった者は、自ら攻撃を加える意図がなくても、刑法208条の2第1項にいう「共同して害を加えるも目的」を有するものとして、同条による罪責を免れない

と判示しました。

東京高裁判決(昭和44年9月29日)

 裁判所は、

  • 刑法第208条の2の1項前段所定の凶器準備集合罪にいわゆる「集合」した場合というのは、共同加害の目的であらかじめ自ら凶器を手にして集合した場合ばかりでなく、共同加害の目的で凶器の準備のある集合体に加わった場合に、その後しばらくして初めて自ら凶器を準備した場合をも含むと解するのが相当であって、この後者の場合には、その準備した時点において、凶器を準備して「集合」した者として前記凶器準備集合罪が成立するというべく、右のように集合体に加わった時点以降自らが凶器を準備した時点までの間において、たとえ集合体中の一部の者により加害行為が開始されたとしても、なお全体として加害目的を伴う凶器準備の集合状態が存続している限り、同罪の成立が妨げられるものではない
  • もっとも、右のように集合体に加わった凶器を準備した者については、すでにその参加の時点において刑法第208条の2の1項後段所定の凶器の準備あることを知って集合した罪が成立しているものと解されるが、このような場合には両者は包括して前同条1項の一罪が成立するものと解すべきである

と判示し、凶器を準備して共同加害の目的の集合に参加した時点において凶器準備集合罪が成立するとしました。

東京高裁判決(昭和49年7月31日)

 裁判所は、

  • 凶器準備集合罪は、共謀共同正犯の形をとる場合をも含むと解するのが相当であって、共謀共同正犯の成立に必要な謀議に参加した事実が認められる以上、たとえ当該犯人がその集合体に参加しなかつたとしても、共同正犯の刑責を負うべきものである

と判示し、凶器準備集合罪の謀議に参加すれば、加害目的の集合体に参加しなくても、凶器準備集合罪の共謀共同正犯が成立するとしました。

「幇助的意思」ないし「助勢的意思」にとどまる集合者に対し、凶器準備集合罪は成立するか?

 学説では、「幇助的意思」ないし「助勢的意思」にとどまる集合者についても、集合体として共同加害行為を行う目的のあることを認識して集合した以上、凶器準備集合罪が成立すると解する説が有力です。

 目的である加害行為について幇助的役割を担う意思であっても、集合体の一員として主体的に参加する場合には、凶器準備集合罪の成立を認めるべきであるとする説もあります(この場合は、凶器準備集合罪の幇助にとどまるとする見解もあります)。

 ただし、単なる野次馬的な参加者までに凶器準備集合罪が成立するとするのは疑問であるとする見解も有力であり、単なる野次馬的な参加者がその現場にいるというだけで、「集合した」とはいえないと解されます。

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