これから7回にわたり、拐取者身の代金取得罪、拐取者身の代金要求罪(刑法225条の2第2項)を説明します。
この記事では、拐取者身の代金取得罪、拐取者身の代金要求罪を「本罪」といって説明します。
拐取者身の代金取得罪、拐取者身の代金要求罪とは?
本罪は、刑法225条の2の第2項に規定があり、
第1項 近親者その他略取され又は誘拐された者の安否を憂慮する者の憂慮に乗じてその財物を交付させる目的で、人を略取し、又は誘拐した者は、無期又は3年以上の懲役に処する
第2項 人を略取し又は誘拐した者が近親者その他略取され又は誘拐された者の安否を憂慮する者の憂慮に乗じて、その財物を交付させ、又はこれを要求する行為をしたときも、前項と同様とする
と規定されます。
「略取」「誘拐」とは?
「略取」「誘拐」とは、
人を保護されている状態から引き離し、自己又は第三者の事実的支配の下に置くこと
をいいます。
「略取」と「誘拐」との区別について、
- 「略取」は暴行又は脅迫を手段とする場合
- 「誘拐」は欺岡又は誘惑を手段とする場合
をいいます(略取・誘拐の詳しい説明は前の記事参照)。
「略取」「誘拐」を併せて「拐取」といいます。
罪名
刑法225条の2の第1項は、
- 身の代金略取罪(身の代金取得を目的とし、人を略取した場合の罪名)
- 身の代金誘拐罪(身の代金取得を目的とし、人を誘拐した場合の罪名)
- 身の代金拐取罪(身の代金取得を目的とし、人を誘拐した上で略取した場合の罪名)
を規定します。
「身の代金拐取罪」は、例えば、人をだまして誘い出し(「誘拐」)、誘い出したところで暴行・脅迫を加えて「略取」した場合が該当します。
裁判例をみると、人を略取のみした場合でも、「身の代金略取罪」ではなく、「身の代金拐取罪」の罪名を適用するものもあります。
刑法225条の2の第2項は、
- 拐取者身の代金取得罪(略取・誘拐者が、人から身の代金を要求して交付を受けた場合の罪名)
- 拐取者身の代金要求罪(略取・誘拐者が、人に身の代金を要求した場合の罪名)
を規定します。
刑法225条の2は、昭和30年代にこの種の犯行が頻発し、当時は営利誘拐罪(刑法225条)と恐喝罪(刑法249条)で処罰するしかなかったことから、独立の犯罪類型を定めるとともに刑を重くする趣旨で、昭和39年に新設されたものです。
略取・誘拐された者の収受者による身の代金の取得又は要求行為は、同時に新設された刑法227条4項後段(収受者身の代金取得罪、収受者身の代金要求罪)によって処罰されることになります。
主体(犯人)
本罪(拐取者身の代金取得罪、拐取者身の代金要求罪)の主体(犯人)は、
人を略取・誘拐した者
です。
本罪の主体(犯人)には、
- 身の代金目的で略取・誘拐した者(刑法225条の2第1項)
- 未成年者を略取・誘拐した者(刑法224条)
- 営利等の目的で略取・誘拐した者(刑法225条)
- 所在国外移送の目的で略取・誘拐した者(刑法226条)
もなり得ます。
それ自体では罪にならないような略取・誘拐(例えば、成人に対する営利の目的を欠いた略取・誘拐)をした者も含むかどうかという点については、肯定説と否定説に分かれています(学説)。
本罪の主体(犯人)が、略取・誘拐された者に対する実力的支配を継続していることを要しません。
本罪の主体(犯人)が、略取・誘拐罪の正犯者に限られるかどうかについては、肯定説と否定説に分かれています(学説)。