刑法(賭博開張等図利罪)

賭博開張等図利罪(5)~「『利益を図る』の『図る』とは?」「共犯者に利益を図る目的があった場合においては図利目的が認められる」を説明

 前回の記事の続きです。

「利益を図る」の「図る」とは?

 賭博開張図利罪は、刑法186条2項において、

  • 賭博場を開張し、又は博徒を結合して利益を図った者は、3月以上5年以下の拘禁刑に処する

と規定されます。

 この記事では、「利益を図る」の「図る」の意味を説明します。

1⃣ 利益を「図る」というのは、主観的に利益を得る目的を有することであり、現実に利益を得たことを要しません。

 この点を判示したのが以下の判例です。

大審院判決(大正12年3月15日)

 賭博開張者が寺銭徴収に至らなかった事案で、裁判所は、

  • 犯人が現実に利益を収得したるや否やば賭博開張図利罪の成否に何らの影響なきものとす

と判示しました。

大審院判決(大正13年5月30日)

 裁判所は、

  • 必ずしも現実に利益を収得したる事実あることを要せず

と判示しました。

大審院判決(昭和14年2月13日)

 裁判所は、

  • 開張者の終局的利益に帰したりや否やは、本罪の構成に影響なきものとす

と判示しました。

大審院判決(昭和3年2月27日)

 裁判所は、

  • 開張者が現実に利益を収得したると否とを問うの要なきものとす

と判示しました。

最高裁判決(昭和24年10月8日)

 裁判所は、

  •  賭博開帳罪は犯人が利益を得る目的をもつて賭場を開設し賭者に賭博をする機会を与へることによつて成立するのであるから現実に利益を収得した事実を要するものではない
  • それ故、犯人が寺銭として収得した金員から賭場開設の費用を控除して現実に何らの利益を収得しなった場合でも苟も利益を得る目的をもって賭場を開帳した以上、賭博開帳罪は成立するのである

と判示しました。

最高裁判決(昭和35年3月22日)

 裁判所は、

  • 賭場開張罪の成立には、これによって利益を得る目的の存する以上、現実に利益を得たか否かは問うところでないことは所論のとおりである

と判示しました。

2⃣ 寺銭等の名目で徴収した金銭全額が開張のために必要な経費に使われ、結果として開張者に利益がなかったとしても、事後的に図利の要件が消滅するものではなく、賭博開張図利罪が成立します。

 この点に関する以下の判例があります。

大審院判決(昭和15年9月9日)

 裁判所は、

  • 既に寺銭を徴したる以上、賭場を開張し利を図りたるというに支障なく、爾後、その金銭をいかに処分するも犯罪の成立に影響あるを見ず

と判示しました。

最高裁判決(昭和24年4月12日)

 裁判所は、

  • 被告人は集めた寺銭のほとんど全額を宿代、酒肴代等に費して、結果的には自己に利得していないことを窺い知ることができる
  • しかし、賭博の寺銭というものは、事前に一定の金額を予定して、その金額に達するまで集金するものではなく、勝負の都度、勝利者の取得する金銭から一定の歩合で取り立てるものであるから、その金額は不定であって、その場で行われる賭博の同数、賭者の人数、賭金の多少によって変動する
  • それらが多ければ多いほど寺銭も多額となり、従って共同遊戯に必要な費用を支弁した残額は寺元の利得となるのである
  • されば、現実の結果としては、寺銭の額が必要な費用の支弁に尽きたとしても、それをもって寺元に図利の意思がなかったものということはできない

と判示しました。

最高裁判決(昭和24年10月8日)

 裁判所は、

  • 賭博開張罪は犯人が利益を得る目的をもって賭場を開設し賭者に賭博をする機会を与えることによって成立するものであるから、現実に利益を収得した事実を要するものではない
  • それ故、犯人が寺銭として収得した金員から賭場開設の費用を控除して現実に何らの利益を収得しなかった場合でも苟も利益を得る目的をもって賭場を開張した以上、開張罪は成立するのである

と判示しました。

最高裁判決(昭和25年5月19日)

 裁判所は、

  • 一体軍鶏賭博で賭場開張者が傷代、席代等の名義で賭博の勝者から一定率の金銭を徴収した場合には、むしろかえって、特段の事情がない限りその徴収金は一応賭場開張者の利に帰するものであるとみるのが社会通念であって、特別の判示を要しないこと一般の賭博における寺銭と異ならない
  • そしてまたその金銭がそれぞれの軍鶏所有者、席所有者らに軍鶏の傷代なり席の損料なりとして支払われるとしても、金額は勝負の都度、勝利者の取得する金銭から一定歩合で取り立てられるのであるから、その時の賭金の多寡により必ずしも一定せず、場合によっては全額支出し現実の利益がないこともあろうが、それをもって賭場開張者に当初から図利の意思がなかったものということはできない

と判示しました。

共犯者に利益を図る目的があった場合においては図利目的が認められる

 賭場開張の共犯者に利益を図る目的がある場合でも図利目的ありということができるとし、賭博開張図利罪の成立を認めた判例があります。

最高裁判決(昭和42年9月21日)

 裁判所は、

  • 賭博開帳図利罪において、被告人が自己と共同正犯としての責任を負うべき共犯者の利益を図る目的を有するときは、被告人に図利の目的があつたものとみるべきである

と判示し、被告人に賭博開張図利罪の成立を認めました。

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