前回の記事の続きです。
賭場開張幇助罪と賭博幇助罪(又は常習賭博幇助罪)との罪数関係の考え方
1⃣ 同一の行為であって賭場開張行為と賭博行為のいずれをも容易にする行為は、賭場開張罪の幇助のみをもって論じられ、別個に賭博罪の幇助罪が成立するものではないとされます。
例えば、賭博場を提供する行為については、賭博開張図利幇助罪のみが成立し、賭博幇助罪は成立しません。
この点に関する以下の判例があります。
大審院判決(大正9年11月4日)
裁判所は、
- 賭場開張罪は、利を図るの目的をもって賭博を為さしむべき場を開設するにより成立するものにして、その行為は該賭場において賭博を為す者に便宜を与え、その犯行を容易ならしむるものたるは論を俟たざるところなれば、賭博開張罪は、性質上、賭博幇助の観念を包擁するものといわざるべからず
- 故に、賭博開張の情を知り、賭場に充つべき房屋を給与し、賭場開張罪を幇助したるは、その行為の結果、同時に賭博の犯行を容易ならしめたるときといえども、その行為は賭場開張罪の従犯をもって論ずべきものにして、更にこれを賭博罪の従犯に問擬(もんぎ)すべきものに非ずと解するを正当とす
と判示しました。
2⃣ 賭博開張行為を容易にする行為と賭博行為を容易にする行為とが区別される場合においては、これらが1個の行為として行われた場合は、賭場開張図利幇助罪と賭博幇助罪の両罪が成立し、両罪は観念的競合の関係になります。
例えば、賭場を開張したことに対する手数料の授受(賭博開張行為を容易にする行為)と賭金の授受(賭博行為を容易にする行為)が1個の行為として行われたときは、賭場開張図利幇助罪と賭博幇助罪の両罪が成立し、両罪は観念的競合の関係になります。
この点に関する以下の判例があります。
大審院判決(大正10年3月14日)
裁判所は、
- 賭場開張罪と賭博罪とは、別個独立の犯罪なるをもって、賭場開張が自己の開設したる賭場において自ら賭博を為すことは、賭場開張罪のほか、賭博罪を構成すべきや論を俟たず
- 故に、賭場開張罪を幇助する行為あるほか、別に賭博罪を幇助するの行為あるにおいては、2個の犯罪を構成すべく、たとえその行為は1個なりとするも、そのひとつが賭場開張罪を幇助し、他のひとつが賭博罪を幇助するものなる以上は、2個の犯罪を幇助したるものにして、すなわち1個の行為にして2個の罪名に触るるものといわざるべからず
- ただし、賭場開張罪は、賭博幇助の観念を包擁することは当院例(大正9年(れ)第149号同年11月4日言渡判決)の示すところなるをもって、その幇助行為が1個なる場合において行為の全部が賭場開張罪を幇助すると共に、賭博罪を幇助するに至るときは、その行為は単に賭場開張罪の従犯をもって論ずべきものにして、更に賭博罪の従犯に問擬(もんぎ)すべきものに非ず
- 原判決を案ずるに、被告X、Yは、いずれも被告Zが判示の場所に賭場を開張して利を図り、かつ自ら同賭場において賭博を為すの情を知りながら賭場開張者及び賭博者間に介在し、同時に賭金及び手数料の授受を媒介し、もって被告Zの賭場開張行為を幇助すると同時に同被告らの賭博行為を幇助したるものなれば、右両名の幇助行為は、各1個の行為にして2個の罪名に触るるものといわざるべからず
- 蓋し、叙上の場合において、賭金の授受は賭博罪を幇助するにとどまり賭博開張罪を幇助することなく、手数料の授受は賭博開張罪を幇助するにとどまり賭博罪を幇助することなく、すなわち1個の行為にしてそのひとうは賭場開張罪を幇助し、他のひとうは賭博罪を幇助するものなればなり
と判示しました。
大審院判決(大正12年4月6日)
裁判所は、
- もしそれぞれ被告人A、B、Cの3名が、被告人Z、X、Yが賭博場開張罪及び常習賭博罪を行うの情を知り、賭博場開張者たり賭博の受方たる被告人X、Yと賭博客との中間に介在し、注文の取次証拠金(手数料を含む)の受授、損益の計算諸般の行為を為し、もって一面において賭博開張罪を幇助したるは、1個の行為にして2個の罪名に触るるものに係るをもってこれを想像的併合罪(※観念的競合のこと)として処断したるは相当にして賭博場開張罪と賭博罪との開係と同視すべきに非ず
と判示しました。