刑法(わいせつ物頒布等罪)

わいせつ物頒布等の罪(1)~「わいせつ物頒布等の罪とは?」「罪名」「保護法益」を説明

 これから21回にわたり、わいせつ物頒布等の罪(刑法175条)を説明します。

わいせつ物頒布等の罪とは?

わいせつ物頒布等の罪は、刑法175条において、

第1項 わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、2年以下の拘禁刑若しくは250万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は拘禁刑及び罰金を併科する。電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする

第2項 有償で頒布する目的で、前項の物を所持し、又は同項の電磁的記録を保管した者も、同項と同様とする

と規定されます。

わいせつ物頒布等の罪により処罰される行為

 わいせつ物頒布等の罪は、

  • わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物の頒布・公然陳列行為(1項前段)
  • 電気通信の送信によるわいせつな電磁的記録その他の記録の頒布(1項後段)

を処罰するとともに、

  • わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を有償頒布目的で所持し、又は、わいせつな電磁的記録を有償頒布目的で保管する行為

を処罰するものです(第2項)。

罪名

 わいせつ物頒布等の罪は、第1項の前段で、

  • わいせつ文書頒布罪
  • わいせつ文書陳列罪
  • わいせつ図画頒布罪
  • わいせつ図画陳列罪
  • わいせつ電磁的記録記録媒体頒布罪
  • わいせつ電磁的記録記録媒体陳列罪
  • わいせつ物頒布罪
  • わいせつ陳列罪

を規定します。

 第1項の後段で、

  • わいせつ電磁的記録等送信頒布罪

を規定します。

 第2項で、

  • わいせつ文書有償頒布目的所持罪
  • わいせつ図画有償頒布目的所持罪
  • わいせつ電磁的記録記録媒体有償頒布目的所持罪
  • わいせつ物有償頒布目的所持罪
  • わいせつ電磁的記録有償頒布目的保管罪

を規定します。

保護法益

 わいせつ物頒布等の罪(刑法175条)の保護法益は、

性道徳・性秩序の維持

と解されます。

 この点に関する以下の判例があります。

最高裁判決(昭和32年3月13日)チャタレー事件

 裁判所は、

  • (わいせつ文書は、)人間の性に関する良心を麻痺させ、理性による制限を度外視し、奔放、無制限に振舞い、性道徳、性秩序を無視することを誘発する危険を包蔵している
  • 法は単に社会秩序の維持に関し重要な意味をもつ道徳すなわち「最少限度の道徳」だけを自己の中に取り入れ、それが実現を企図するのである

として、規制の根拠を性道徳・性秩序の維持に求める判示をしました。

最高裁判決(昭和34年3月5日)

 裁判所は、

  • いわゆる風俗を害する罪であって、性的秩序ともいうべき一定の社会生活上の秩序を維持するため、わいせつの文書、図面、その他の物を公表することを禁止することを目的とするものである

とし、規制の根拠を性的秩序に求める判示をしました。

最高裁判決(昭和49年4月18日)

 裁判所は、わいせつ文書の規制の根拠を

  • 性生活に関する秩序および健全な風俗を維持することである

としました。

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