刑法(逃走の罪)

逃走の罪(1)~「逃走の罪の種別」「保護法益」「逃走の罪の合憲性」「国外犯」を説明

 これから2回にわたり、逃走の罪(刑法6章)全般に係る事項を説明します。

逃走の罪の種別

 逃走の罪は、刑法6章に規定があり、

「被拘禁者自身が逃走する罪」である

「他の者が被拘禁者を逃走させる罪」である

とに分けられます。

 「被拘禁者自身が逃走する罪」については、被拘禁者が逃走を欲するのは人情の自然ともいえ、その意味で定型的に期待可能性が低いとされています。

 他方、「他の者が被拘禁者を逃走させる罪」については、自己逃走罪と異なり期待可能性が低いとはいえず、そのため、刑も「被拘禁者自身が逃走する罪」に比して重く定められています。

保護法益

 逃走の罪(刑法6章)は、

  • 被拘禁者が逃走する行為
  • 他の者が被拘禁者を逃走させる行為

とを処罰するものであり、

国家の拘禁作用

保護法益としています。

 拘禁は、刑事司法に関してなされることが多く、したがって、逃走の罪は、国家の拘禁作用、特に刑事司法に関する拘禁作用を保護法益とします。

 しかし、必ずしも刑事司法に関する拘禁作用のみを保護法益とするものではありません。

逃走の罪の合憲性

 逃走の罪は合憲であることに言及した判例があります。

憲法11条(基本的人権の享有)との関係

 法律の定める手続によれば生命、自由を奪う刑罰を科すことができるのであり(憲法31条)、したがって、拘禁が法律の定める手続に基づき適正になされたものである以上、その拘禁からの離脱を逃走罪により処罰することは、国民に基本的人権の享有を保障した憲法11条の規定に反しません。

 この点に関する以下の判例があります。

最高裁判決(昭和26年7月11日)

 加重逃走未遂罪(刑法98条102条)の合憲性に関し、弁護人が加重逃走未遂罪は憲法11条に違反するの主張に対した事案です。

 裁判所は、

  • 囚人の自己逃走を処罰するために設けられた前記刑法規定は公共の福祉を保持するために自由の制限を認めたものであって、所論のごとき違憲のかどは認められない

と判示しました。

憲法18条(奴隷的拘束・苦役からの自由)との関係

 適法になされた拘禁それ自体は、憲法18条にいう奴隸的拘束に当たらず、逃走して拘禁から離脱する者を処罰することは同条に違反しません。

 この点に関する以下の裁判例があります。

東京高裁判決(昭和28年11月5日)

 単純逃走罪(刑法97条)の合憲性に関し、裁判所は、

  • 犯罪による処罰の場合には、囚人をその意に反して拘束し、苦役に服せしめることは憲法もこれを是認するところであるから、刑法がその身柄の拘束を排除し、苦役を免れようとする者に対し刑罰をもって臨むことはむしろ当然のことといわなければならないのであり、また右苦役を前提とする身柄の拘束はもとより憲法にいわゆる奴隸的拘束には当たらないのであるから、所論既決の囚人逃走の場合に関し、刑法第97条が憲法に違反する旨の主張は到底採用し難い

と判示しました。

国外犯

 逃走の罪(刑法6章)のうち、看守者逃走援助罪(刑法101条)については、公務員の国外犯に係る規定の適用があります(刑法4条1項)。

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