前回の記事の続きです。
単純逃走罪において共犯(共同正犯)は成立しない
1⃣ 単純逃走罪(刑法97条)の身分を有する二人以上の者が、通謀して逃走したときは、加重逃走罪(刑法98条)が成立します。
この場合、二人以上の者が逃走行為に着手する必要があると一般に解されています。
2⃣ 上記のような加重逃走罪が成立する以外に、「単純逃走罪の共同正犯」が成立する余地があるかについては、これを否定するのが一般です。
例えば
- 単純逃走罪の身分を有する者が、外部の者と通謀して逃走した場合に、単純逃走罪の共同正犯が成立するか
- 単純逃走罪の身分を有する二人以上の者が、ともに逃走することを通謀したものの、そのうち1名しか逃走に着手しなかった場合につき、通謀者に単純逃走罪の共同正犯が成立する余地があるか
が問題になります。
この点について、単純逃走罪の共同正犯の成立を否定するのが一般です。
その理由として、学説では、
- 上記①の場合に関し、単純逃走罪は真正身分犯であり、刑法65条1項の「共犯とする」には共同正犯を含まないので、単純逃走罪の身分を有しない者との共同正犯の成立の余地はないこと
- 上記②の場合に関し、加重逃走罪は必要的共犯なので、内部関係においては共犯規定の適用がないし、共同正犯に関するいわゆる共謀共同正犯説も適用されないのであり、通謀者のうち既遂又は未遂に達した者が一人しかいない場合はその者だけが単純逃走罪の既遂又は未遂となり、他の通謀者は単純逃走罪の予備として責任を負わないこと
- 逃走罪は自手犯であるので、逃走罪の間接正犯が考えられないのと同様に、逃走罪の共同正犯もあり得ないこと
が挙げられています。
そして、このように外部の者と通謀して逃走した場合や、通謀の上一人だけ逃走した場合については、
- 逃走者につき単純逃走罪が成立し、通謀者については、その幇助が認められるとする見解
- 逃走者につき単純逃走罪が、通謀者には刑法100条の逃走援助罪が認められるとする見解
が示されています。
この点に関する参考となる裁判例として、以下のものがあります。
佐賀地裁判決(昭和35年6月27日)
逃走罪の共犯の成否に関し、判決中の傍論として、裁判官は、
- 共犯形式による逃走については右の刑法第98条、第100条に特別の規定がおかれているのであって、これは取りもなおさず刑法総則の共犯規定に従ってそのひとつである刑法第60条の適用はこれを排除する趣旨である
と判示しました。
この判決は、逃走罪の共同正犯はすべて刑法98条の加重逃走罪でまかなうのが刑法98条の趣旨と解しているものと解されています。
単純逃走罪と加重逃走罪との関係
単純逃走罪は状態犯なので、いったん単純逃走罪が既遂に達した後は、逮捕を免れるため暴行・脅迫を加えても、公務執行妨害罪が成立することがあるのは別として、加重逃走罪(刑法98条)は成立しません。