これから6回にわたり、逃走援助罪(刑法100条)を説明します。
逃走援助罪とは?
逃走援助罪は、刑法100条に規定があり、
1項 法令により拘禁された者を逃走させる目的で、器具を提供し、その他逃走を容易にすべき行為をした者は、3年以下の拘禁刑に処する
2項 前項の目的で、暴行又は脅迫をした者は、3月以上5年以下の拘禁刑に処する
と規定されます。
逃走援助罪は、被拘禁者を逃走させる罪の一つであり、
被拘禁者を逃走させる目的で、逃走を容易にさせる行為をすることを処罰するもの
です。
未遂
逃走援助罪は、未遂も罰せられます(刑法102条)。
逃走援助罪の性格
逃走援助罪の性格についは見解が分かれており、
- 逃走援助罪を逃走罪の教唆ないし幇助的行為を独立罪として規定したものであるとする見解
- 逃走罪の幇助的行為を独立罪として規定したものであるとする見解
- 逃走援助罪を自己逃走罪の独立犯とみるとしても、特殊な形態の幇助行為に限って独立罪として規定したものとする見解
- 実質は逃走罪の幇助行為としつつ、ときには逃走者と共同して行われるような類型も含まれるとし、あるいは逃走援助罪の要件に当たる限り教唆行為も含むとする見解
- 逃走援助罪の1項は、幇助の独立罪というよりは、むしろ一種の正犯に高められたものであり、また、本罪の2項の罪は1項とは関係なく明白な正犯であるとする見解
- 逃走援助罪を自己逃走罪の単なる共犯としてとらえることは妥当でなく、逃走援助罪は、前条の被拘禁者奪取罪(刑法99条)に準じて、主体的に、被拘禁者を逃走させる行為を企図するものとしてとらえるべきであるとする見解
があります。
これらの見解の相違は、逃走を教唆ないし幇助する行為は、もっぱら逃走援助罪で処罰することとなるのか、言い換えると、逃走援助罪が成立するほか、逃走罪の教唆又は幇助犯の成立の余地があるかなどの点につき、その結論に差異をもたらすことになります。
この点に関して言及した以下の裁判例があります。
佐賀地裁判決(昭和35年6月27日)
判決の傍論において、
- 刑法第100条の罪はその実質において広く教唆、幇助の双方を含み、しかも被拘禁者を逃走せしめる目的でその逃走を容易ならしめる行為をした以上、被拘禁者が逃走に着手しなくても成立する(独立罪)ものと解せられる
と述べられています。
この裁判例に基づけば、逃走援助罪の援助行為には本来逃走の幇助とされるような行為のほか、その教唆とされるような行為をも含むと解するのが相当と解することができます。
したがって、逃走援助罪が成立するためには、
被拘禁者の逃走を容易にさせる行為をすれば足り、被拘禁者自身が逃走行為に着手する必要はない
と解されます。
目的犯
逃走援助罪は、被拘禁者を逃走させる目的を必要とする目的犯です。
2項の逃走援助罪の方が、1項の逃走援助罪より法定刑が重い
2項の逃走援助罪の暴行又は脅迫行為は、1項の逃走援助罪にいう「逃走を容易にすべき行為」の一つですが、暴行又は脅迫を手段とする場合を加重類型として、2項(法定刑:3月以上5年以下の拘禁刑)において、1項(法定刑:3年以下の拘禁刑)に比して法定刑を重く定めたものです。
主体(犯人)
逃走援助罪の主体(主体)は、特に限定は加えられていません。
誰でも本罪の主体になり得ます。
なお、看守者又は護送者たる身分を有する者については、別に看守者逃走援助罪(刑法101条)が規定されています。
客体(法令により拘禁された者)
逃走援助罪の客体は、刑法100条の条文に規定される「法令により拘禁された者」です。
「法令により拘禁された者」の意義は、被拘禁者奪取罪(刑法99条)と同じです(この説明は被拘禁者奪取罪(2)の記事参照)。