これから15回にわたり、背任罪(刑法247条)を説明します。
背任罪とは?
背任罪は刑法247条において、
他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、5年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処する
と規定されます。
保護法益
背任罪の保護法益は、「財産的利益一般」です。
親族相盗例
背任罪は、親族相盗例が適用されます(刑法244条、刑法251条)。
親族相盗例の説明は、前の記事参照。
背任罪の刑法247条の条文中の「他人(本人)」が、
- 「配偶者、直系血族又は同居の親族」である場合は、刑が免除される
- 「配偶者、直系血族又は同居の親族以外」である場合は、背任罪は親告罪になる
となります。
背任罪の本質
背任罪の本質について、
- 背任説
- 権限濫用説
が提唱されています。
① 背任説
通説・判例は背信説に拠っています。
背信説は、信義誠実の原則によって要求される行為者と被害者との間の信任関係の違背による財産侵害にこそ背任罪の本質があるとします。
背任説に基づくと、背任行為は、第三者に対する関係のみならず、本人(任務を委任した者)に対する関係においても、法律行為であると、事実行為であるとを問わず、背任罪が成立することになります。
背任説はその定義が抽象的であるため、処罰範囲が広いという性質があります。
背任説に拠っているとされる判例として、以下のものがあります。
大審院判決(大正11年10月9日)
裁判所は、
- 刑法第247条にいわゆる他人の事務を処理する者とは、単に固有の権限をもってその処理を為す者のみならず、その者の補助機関として直接その処理に関する事務を担当する者も包含す
と判示しました。
大審院判決(昭和3年5月1日)
裁判所は、
- 刑法第247条にいわゆる他人のためにその事務を処理する者は、ひとり委任雇用等当事者間の信任関係に基づき事務を処理する者にとどまらず、信任関係なき他人のためにその事務を処理する者をも包含するものとす
と判示しました。
なお、背任説に対する批判的意見として、
- 背任説は具体的に背任罪の成否の限界を特定する基準として機能しない
- 信義則違反を強調しすぎるあまり、単なる信義則違反の事案をも処罰することになり、処罰範囲が広がり過ぎる
という批判があります。
② 権限濫用説
権限濫用説は、法律上の処分権限(代理権)の濫用による財産侵害に背任罪の本質があるとします。
権限濫用説は、法的代理権を有し、本人の財産を処分できる法的権限を有している者が、第三者の法律行為という行為形態で本人の財産状態を侵害する行為をした場合に背任罪と構成するとします。
権限濫用説によると、背任罪は、法律行為によってのみ成立し、事実行為は背任行為に含まれないとされるため、帳簿の虚偽記入によって財産上の損害を負わせた場合のような可罰性のある事実行為をも処罰し得ないこととなり、 処罰の間隙を生ずるという欠陥があると批判されています。