これから12回にわたり、親族間の犯罪に関する特例(親族相盗例)(刑法244条、刑法251条、刑法255条)を説明します。
親族間の犯罪に関する特例(親族相盗例)とは?
親族間の犯罪に関する特例(親族相盗例:しんぞくそうとうれい)は、刑法244条に規定があり、
1項 配偶者、直系血族又は同居の親族との間で第235条の罪、第235条の2の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯した者は、その刑を免除する
2項 前項に規定する親族以外の親族との間で犯した同項に規定する罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない
3項 前二項の規定は、親族でない共犯については、適用しない
と規定されます。
親族相盗例は、
- 配偶者、直系血族、同居の親族の間において窃盗罪(刑法235条)、不動産侵奪罪(刑法235条の2)又はこれらの罪の未遂罪を犯した者に対し、その刑を免除するもの
- 配偶者、直系血族、同居の親族以外の親族(具体的には、「6親等以内の血族、3親等以内の姻族」が該当)が窃盗罪、不動産侵奪罪又はこれらの罪の未遂罪を犯した場合は、各罪は親告罪となり、「6親等以内の血族、3親等以内の姻族」の告訴がなければ公訴を提起することができないとするもの
です。
刑法244条の立法理由について、親族間の窃盗については、「法律は家庭に立ち入らない」との思想のもとに国家が刑罰権の干渉を差し控え、親族間の規律にゆだねるほうが望ましいとの政策的考慮に基づくものと解するのが通説、判例です。
このような政策的考慮から、親族関係の親疎に応じ、
- 「配偶者、直系血族、同居の親族」というの近い親族の場合
と、
- より遠いその他の親族である「6親等以内の血族、3親等以内の姻族」の場合
との間で処分に差異を設けることとしています。
親族相盗例が適用される罪名
親族相盗例を規定する刑法244条は、刑法251条、刑法255条において準用されており、親族相盗例が適用される罪名を列挙すると以下のようになります。
- 窃盗罪(刑法235条)
- 不動産侵奪罪(刑法235条の2)
- 詐欺罪(刑法246条)
- 電子計算機使用詐欺罪(刑法第246条の2)
- 背任罪(刑法247条)
- 準詐欺罪(刑法第248条)
- 恐喝罪(刑法249条)
- 横領罪(刑法252条)
- 業務上横領罪(刑法253条)
- 遺失物横領罪、占有離脱物横領罪(刑法254条)
親族相盗例は強盗罪には適用されない
親族相盗例の規定は、強盗罪(刑法236条)には適用されません。
強盗罪は、盗罪の一種であるとはいえ、強度の暴行又は脅迫を手段とする点で財産罪を超えるものがあり、この制度の趣旨に沿わないためです。