社会的学習
人間の脳は、生まれながらにして周囲の人々を見て学び、知識を取得するように設計されています。
この脳の学習機能を「社会的学習」といいます。
人は、価値のある商品・サービスの選び方から、歯のみがき方に至るまで、ほぼすべての事柄を他人の行動を観察することによって学び、模倣し、吸収し、採用します。
社会的学習は、学校でいうところの「前ならえ」です。
社会に出ると「前例踏襲」という呼び方に変わります。
社会的学習は、すでに確立された前例に習う行為なので、安心・安全を私たちに感じさせてくれます。
社会的学習といえば子供
社会的学習の分かりやすい例は、子供です。
脳にまだ知識が入っていない子供は、親の行動を見て学びます。
親が朝起きて「おはよう」を言う人なら、その子供も「おはよう」を言う子になります。
親が朝起きて「おはよう」を言わない人なら、その子供も「おはよう」を言わない子になります。
新入社員も社会的学習を行う代表者です。
新入社員がゴミ捨て・掃除をやる文化の会社に入れば、新入社員は「自分たちがゴミ捨て、掃除をやるものなんだ」と学習し、そのとおり行動します。
ヒット商品・サービスは、人間の「社会的学習」の能力から生まれる
誰かが、ある商品やサービスを選ぶ行為を見るだけで、その商品やサービスの価値は増すように感じられ、ほかの人にも選ばれやすくなります。
他人がある商品・サービスを選ぶのを見ると、その商品・サービスに安心を感じ、学び、模倣し、採用するとういう社会的学習の能力が発現するからです。
映画、アニメ、音楽アーティストなど、話題を呼びはじめると、人がどんどん集まってきます。
商品・サービスの内容が良いこととは別に、たくさんの人が選んでいるのを見て、社会的学習の発現により、自分もその商品・サービスを選びたくなり、結果、その商品・サービスが売れる仕組みになっています。
実力のある音楽アーティストだとしても、ライブ会場に誰もいなければ不安を感じ、そのライブチケットを買おうとは思いません。
ライブ会場にたくさんの人が集まるから、安心を感じて自分もライブチケットを買おうと思うのです。
商品・サービスがヒットするのは、たくさんの人がその商品・サービスを選んでいるのを見て、社会的学習の機能により自分も選びたくなるからです。
これが集団心理化すると、‶みんなが買ってるから自分も買う″となり、その商品・サービスは爆発的に売れてメガヒットになります。
商品・サービスをヒットさせるためには、人の社会的学習の機能を引き出せるかがポイントになります。
【追記】社会的学習はネットのレビューにも影響
フェイスブック社のショーン・タイラーの調査
フェイスブック社に勤務しているショーン・タイラーは、ネット上のコメントを操作して最初に高評価レビューを掲載すると、それに続くレビューにどう影響するかを調査しました。
調査の結果、最初に高評価レビューを掲載すると、それに続く好意的なレビューの数は通常より32%多くなるという結果になりました。
人は、無意識のうちに最初のレビューに「前ならえ」をしてしまうということです。
これも人間の社会的学習の機能の現れです。
ネットのレビューが高評価の方向に傾いているか、低評価の方に傾いているかは、たまたま最初にレビューしたユーザーに起因している可能性が高いということです。
ネットのレビューに限らず、最初の人間の行動が、後の人間の行動に大きく影響することは自明の理です。
物事を評価するときは、「最初の人間の行動が、後の人間の行動に影響している」ことを加味する必要があります。