前回の記事の続きです。
虚偽告訴の事実があっても、犯罪が成立が否定される事由があることを隠して申告すれば、虚偽告訴罪が成立する
虚偽告訴罪の構成要件に該当する事実があっても、犯罪の成立が否定される事由(違法性阻却事由、責任阻却事由、免訴事由)があることを隠して申告すれば、虚偽告訴罪が成立します
この点を判示した以下の判例があります。
大審院判決(昭和11年12月26日)
虚偽の事実を申告しても、その事実が勅令の規定により処罰されない事案について、裁判 所は、
- 本件公訴事実は、被告人は昭和6年春、Y中学校よりF中学校に赴任したるF校教諭にして国語漢文科を担任し居りたる者なるところ、昭和9年8月依頼、F校教諭にして剣道及び習字科を担任するMと互いに感情の疎隔を来たし、漸次その度濃厚となりたる末、遂にMをして懲戒処分を受けしむる目的をもって、昭和10年3月17日、監督官たる学務部長Hに対し、Mは、2年前、当時F校絵書助手たりしSを伴い、遊廓に登樓し午前3時頃帰宅したる旨…(省略)
- いずれも虚偽の事実を記載する匿名投書を郵送して同部長Hの手に到達せしめ、もって誣告
したるものなりというに在りて、被告人が、右日時右の如き内容を記載したる書面を学務部長Hに郵送到達せしめたることは、被告人の当公廷におけるその旨の供述及び前示内容同旨の記載ある押収に係る証第一号書面の現存に徴し、これを認め得るといえども、…(虚偽申告)の各点はいずれも昭和9年2月11日勅令第21号官吏、官吏待遇者等の懲戒及び懲罰の免除に関する件の施行以前の事実に属することは、その文言自体により
明らかにして、同勅令によれば、昭和9年2月11日以前における右の如き官吏又は官吏待遇者の所為にして未だ懲戒又は懲罰の処分を受けざる物者に対しては懲戒又は懲罰の制裁を加えざること疑いなきをもって、仮に被告人において
、Mに対し、懲戒の処分を受けしむる目的をもって虚偽の事実をF中学校数論に対する知事の監督權に参画すべき職能を有する当時の学部部長Hに申告したりとするも、監督官においては右勅令のため何らの職権の発動を為さざること多言を要せざるが故に、右の如き事実の申告は、ぞれ自体結局当該官憲をしてその職務を誤らしむる危険なきものというべく、然り而して、誣告罪(虚偽告訴罪)は、一方個人の権利を侵害すると同時に他方において公益上当該官憲の職務を誤らしむる危険あるがために処罰するものなることは、夙に本院の判例として是認するところなれば、右は誣告罪を構成せずと謂わざるべからず
と判示し、懲戒処分の危険性がないことを根拠に虚偽告訴罪が成立しないとしました。