刑法(虚偽告訴罪)

虚偽告訴罪(9)~「虚偽告訴罪の故意」を説明

 前回の記事の続きです。

虚偽告訴罪の故意

 虚偽告訴罪(刑法172条)は故意犯です(故意犯の説明は前の記事参照)。

 虚偽告訴罪の故意が認められるためには、

虚偽の告訴、告発その他の申告事実が虚偽であることの認識

が必要です。

 そして、この認識は、未必的認識で足ります(未必の故意の説明は前の記事参照)。

 この点に関する以下の判例・裁判例があります。

最高裁判決(昭和28年1月23日)

 裁判所は、

  • 誣告罪(虚偽告訴罪)が成立するためには、その主観的要件として申告者が申告した事実につき、その虚偽たることを確定的に認識していたことを必要とするものではなく、未必的な認識があれば足りる
  • 犯罪ありと思料して他人を告発した場合でも、告発者において告発した事実の虚偽たることにつき未必的な認識を有し、かつ右告発が極めて軽々になされたものであって、その適法性を認めることができない以上、誣告罪の成立を妨げるものではない

と判示しました。

福岡高裁判決(昭和32年4月30日)

 裁判所は、

  • 誣告罪(虚偽告訴罪)が成立するためには、人をして刑事上の処分を受けしめることの認識をもって虚偽の事実を申告するだけでは足りず、更にその主観的要件として申告者において申告する事実が虚偽であることの認識を必要とすることは所論のとおりである
  • けれども、事実の虚偽なることは必ずしもこれを確定的に認識することを要するものではなく、未必的な認識をもって足りるものと解するのが相当である
  • ところで、原判決が弁護人の主張に対する判断として「かくの如く被告人はNの右犯罪の存否につき確信なき事実を当該官憲に申告したものであるから、被告人に故意がないと断ずることはできない」とした判文は、これを挙示の証拠に対して熟読すれば所論の如く誣告罪の過失犯を認めたものではなく、被告人において申告した事実が虚偽なることにつき未必的な認識を有していた趣旨を説示したものと解される
  • 従って原判決に所論の如き法律解釈の誤りがあるということはできない

と判示しました。

次の記事へ

虚偽告訴罪の記事一覧