前回の記事の続きです。
虚偽告訴罪と他罪との関係
虚偽告訴罪(刑法172条)と
との関係を説明します。
① 虚偽告訴罪と偽造私文書行使罪との関係
偽造私文書行使罪と虚偽告訴罪が観念的競合に当たるとした判例があります。
大審院判決(大正14年1月21日)
他人の氏名を冒用して衆議院選挙法違反の虚偽の事実を記載した文書を検察官に郵送した事案です。
裁判所は、
- 誣告罪(虚偽告訴罪)は、人をして刑事又は懲戒の処分を受けしむる目的をもって当該官署に対して虚偽の事実の申告を為すによりて成立するものにして、その書面によって申告を為す場合には、当該官署にその書面が到達し、官吏の閲覧し得べき状態に置かれるをもって足り、必ずしもその官吏において申告の内容を認ずることを必要とせざるは、夙に当院の判例と為すところとす(大正3年(れ)第2347号同年11月3日第一刑事部判決)
- 誣告罪の成立を認定するに当たり、検事局において申告の内容を認識したる旨の判示を要せざるはもちろんにして、人をして刑事の処分を受けしむる目的をもって虚偽の事実を記載し、他人の氏名を冒用したる偽造文書を郵便によって行使し、もって誣告を為したる行為は、一面、偽造私文書の行使たると同時に、他面、誣告罪を構成するものにして、すなわち刑法第54条第1項前段にいわゆる1個の行為にして数個の罪名に触れる場合に該当するをもって、原判決がこれを併合罪として問擬(もんぎ)し、法定の加重を為し、量刑を為したるは失当にして、この点の論旨は理由あり」
と判示し、偽造私文書行使罪と虚偽告訴罪とは観念的競合に当たるとしました。
② 虚偽告訴罪と偽証罪との関係
虚偽告訴罪と偽証罪が併合罪の関係にあるとした判例があります。
大審院判決(大正元年8月6日)
虚偽申告の結果、その対象者を被告人とする刑事事件において、虚偽申告した者が証人として宣誓の上、虚偽申告した事実と同一の趣旨の虚偽の証言をして偽証した事案です。
裁判所は、
- 本件における如く刑事の処分を受けしむる目的をもって、虚偽の事項を構え、他人を官に申告する被告の行為と右申告の結果、他人が被告人として取調べを受けるに際し、その証人として宣誓の上、前掲申告する事実と同一趣旨の証言、すなわち虚偽の事実を供述したる被告の行為とは全然別個の行為にして、その侵害する法益に合致するところあるも、全然同一視すべきものに非ずして、各別個の罰条に触れるものなるが故に、右2個の行為は各独立の犯罪を構成するものとす
- 従って、原判決が被告に対する誣告及び偽証の所為をもって、別個独立の犯罪を構成するものとし被告を処断したるは相当にして本論旨は理由なし
と判示し、虚偽告訴罪と偽証罪が併合罪の関係にあるとしました。