刑法(贈収賄罪)

単純収賄罪(2)~賄賂とは?①「賄賂の意義」「賄賂の具体例」を説明

 前回の記事の続きです。

「賄賂」とは?

1⃣ 単純収賄罪(刑法197条)における「賄賂」とは、

  • 公務員の職務に対する不法な報酬としての利益

をいいます。

 ここでいう「利益」は、財産上の利益にとどまらず、人の需要・欲望を満足させるに足りるものであればよいです。

 これらの点に関する以下の裁判例があります。

大阪高裁判決(昭和26年3月12日)

 裁判所は、

  • 刑法第197条の収賄罪は公務員又は仲裁人がその職務に関し違法な利益を収受したときに成立するのである

と判示しました。

東京高裁判決(昭和28年11月5日)

 裁判所は、

  • 家屋無償居住の利益は収賄罪の客体となり得ることももちろんである

と判示し、人の需要・欲望を満足させるものも収賄罪の客体となる趣旨の判決を言い渡しました。 

2⃣ 「利益」とは、具体例には、

  • 金銭や財物

をはじめ、

  • 金融の利益(大審院判決 大正4年7月9日)
  • 家屋・建物の無償貸与(大審院判決 昭和9年6月14日、東京高裁判決 昭和28年11月5日)
  • 接待・供応・芸妓の演芸(大審院判決 明治43年12月19日)
  • 自己の債務の返済(大審院判決 大正14年5月7日、東京地裁判決 昭和52年7月18日)

などの財産上の利益のほか、

  • 異性間の情交(大審院判決 大正4年7月9日、最高裁判決 昭和36年1月13日、仙台高裁判決 昭和35年4月12日、福岡高裁判決 昭和58年10月12日)
  • 職務上の地位(大審院判決 大正4年6月1日)

などの非財産的利益を含む一切の有形・無形の利益が該当し、これらが賄賂となり得えます。

3⃣ 「情報」も賄賂に当たらないとする理由はないとされます。

 個人的な欲望を充足させるに足りる情報であれば、賄賂が有形・無形の財産的・非財産的利益をすべて含むとされていることから賄賂性を否定する理由はないとされます。

 特に、株式取引におけるインサイダー情報など、経済的利益に直結している具体的な情報は、賄賂になり得ると考えられています。

 「情報」が具体的な個人的利益という程度に具体化された情報である限り、賄賂になり得るとされます。

4⃣ 公務員(の共犯者)が所有する不動産を業者が買い受けた場合に賄賂となるのは、「不動産の換金の利益」か、それとも「不動産の買受価額と時価相当額の差額」かが争われた判例があります。

 これについて、最高裁(最高裁決定 平成24年10月15日)は、

  • 県知事とその実弟が共謀の上、実弟が代表取締役を務める会社において、土地を早期に売却する必要性があったが、思うように売却できずにいる状況の中で、県が発注した建設工事受注の謝礼の趣旨の下に、受注業者の下請業者に当該土地を買い取ってもらい代金の支払を受けたという事実関係の下においては、売買代金が時価相当額であったとしても、当該土地の売買による換金の利益が賄賂に当たる

との判断を示し、「賄賂」に当たるのは、「不動産の買受価額と時価相当額の差額」ではなく「不動産の換金の利益」自体であるとしました。

 資金繰りに窮している者にとって、売却が困難な土地の保有と直ちに運転資金に充てられる現金では価値が異なることから、このような場合に「不動産の換金の利益」自体が賄賂に当たるのは当然であると解されています。

「利益」は不正のものであることを要する

1⃣ 「利益」は不正のものであることが必要です。

 「利益」は、社会通念上受領することが許容されない性質の利益であることを要します。

 公務員がその職務の対価を受領することは、特に法律上対価の受領が許容されている場合を除けば許容されません。

2⃣ 不正の利益に該当するといえる場合とは、

  • 公務員が法律上対価の受領が許容されていないのに対価を受領した場合で、公務員の職務とその対価との対価関係(対価性)が認められる場合

であり、この場合に不正の利益に該当するといって差し支えないとされます。

 なお、ただ単に対価関係(対価性)があるというだけでは、賄賂に該当するとはいえない場合があります。

 例えば、

  • 議員などの政治的公務員に対するカンパなどの行為
  • 研究者に対する学術研究のための謝金の提供

については、対価関係があるというだけでは賄賂に該当するとはいえない場合もあります。

 この場合に賄賂に該当するといえるためには、社会通念上不法性を帯びることが必要であると考えらています。

「賄賂」は職務行為に対するものであることを要する

 「賄賂」は職務行為に対するものであれば足り、個々の職務行為と賄賂との間に対価的関係(例えば、職務行為に対する感謝の贈物であるなど)のあることを必要としません。

 この点を判示したのが以下の判例です。

最高裁決定(昭和33年9月30日)

 裁判所は、

  • 賄賂は職務行為に関するものであれば足り、個々の職務行為と賄賂との間に対価的関係のあることを必要とするものではない

と判示しました。

「賄賂」は一時的な利益、法禁物でもよい

 「賄賂」は、

  • 永続的なものでなくてよい
  • 一時的な満足を得るにとどまるものでもよい
  • その利益が不法なものとして所持や処分を禁じられているかどうかを問わない(麻薬等の法禁物であってもよい)

です。

 詐欺行為により得た金銭が賄賂として提供された事例として以下の判例があります。

最高裁判決(昭和23年3月16日)

 裁判所は、

  • 刑法第197条の罪が成立するためには公務員が収受した金品が贓物であっても差し支えない
  • (賍物と知りながら収受した場合は収賄と贓物収受罪(現行法:盗品等譲受け罪)との二罪が成立するわけである)(大審院明治44年(れ)第349号同年3月30日言渡判決参照)
  • されば本件において被告人が原審相被告人にその職務上の不正行為に対する謝礼として交付した金員がたとえ贓物であったとしても、これがために贈賄罪の成立に少しも影響を及ぼすことはない

と判示しました。

「賄賂」は主観的に価値のあるものでもよい

 「賄賂」は、客観的に価値があるものだけではなく、たとえ客観的価値には乏しくても

  • 主観的に価値のあるもの

であれば賄賂となり得ます。

次の記事へ

贈収賄罪の記事一覧