刑法(贈収賄罪)

単純収賄罪(5)~賄賂とは?④「お中元、お歳暮、餞別などの社交的儀礼が賄賂に該当するか否か」を説明

 前回の記事の続きです。

お中元、お歳暮、餞別などの社交的儀礼が賄賂に該当するか否か

 お中元、お歳暮、餞別などが賄賂に該当するか否かについては、

これらの利益の提供が社交的な儀礼の範囲内にとどまる場合、賄賂に該当しない

とするのが一般的な理解となっています。

 しかし、社交的な儀礼の範囲を逸脱すれば賄賂になり得ます。

 この点に関し、以下の判例・裁判例が参考になります。

① 社交的儀礼の範囲を逸脱しているとして賄賂性が認められた判例・裁判例

 社交的儀礼の範囲を逸脱しているとして賄賂性が認められた判例・裁判例の多くは、その理由として、

  • 贈答の当事者の関係が職務上のつながりにすぎず、個人的な関係がないこと
  • 提供された利益が現金などであり、その額に照らし、通常の社会的儀礼の範囲を超えていること

を挙げています。

最高裁判決(昭和26年9月6日)

 裁判所は、

  • 原審の確定した事実によれば、被告人は兵庫県A部B課勤務のC係主任としての職務に関し、D繊維製品株式会社常務取締役兼事務部長であったEから、昭和21年8月初頃及び同年12月25日頃それぞれ現金500円宛の供与を受けたというのである
  • 右判示日時当時における現金500円の供与が、一般社交的儀礼の範囲を逸脱すると認められるべきものである

と判示、金銭の供与行為が社交的儀礼の範囲を逸脱しているとしました。

仙台高裁判決(昭和27年1月30日)

 裁判所は、

  • 弁護人は金2000円の病気見舞いとすれば通常儀礼の範囲内で、犯罪の成立を阻却すると主張するが、もし公務員の職務に関係がなかったならば社交上の慣習儀礼と認められるべき程度の贈物といえども、苟も公務員の職務に関し授受せられる以上賄賂罪の成立することもちろんであって、その額の多少公務員の社交上の地位若しくは時期の如何を理由として公務員の私的生活に関する社交上の儀礼に依る贈答に止まるものと認めなければならないという理由はない

と判示し、金銭の供与行為が社交的儀礼の範囲を逸脱しているとしました。

仙台高裁判決(昭和28年3月16日)

 裁判所は、

  • 病気見舞の名目の金銭の贈与について、職務との関係がなければそれ自体としては社交的儀礼の範囲に当たるものであっても、 職務との対価性が認められる限り、賄賂に当たる

と判示しました。

高松高裁判決(昭和28年7月10日)

 裁判所は、

  • 社交上の儀礼の名目で贈られたものであっても、職務執行行為又はこれと密接な関係にある行為に関する贈与と認むべきものであるときは賄賂罪が成立する

と判示しました。

札幌高裁判決(昭和28年11月5日)

 裁判所は、

  • 原判示のごとく僅々金1350円相当のものであって、儀礼と認められるべき程度の贈物に過ぎないけれども、かかる程度の贈物といえども、いやしくも公務員の職務に関し収受せられる以上は賄賂罪の成立することはもとろんであってその額の多少、公務員の社交上の地位若しくは時期の如何を理由として公務員の私的生活に関する社交上の儀礼による贈答と認めなければならない理由は少しもない

と判示しました。

最高裁決定(昭和30年6月22日)

 裁判所は、

  • 東京都某区役所教育課学事係長たる被告人が、その職務に関する某小学校建設促進に尽力した謝礼として、同建設促進委員長から金500を記念品料として贈与されるに当たり、被告人外関係者数名に対する記念品料が区役所内区議会副議長室において一場の儀式のもとに右委員長から公然と贈呈され、被告人らの上司たる教育課長が代わってこれを受領した事実があつても、被告人の収受した右金5000円について賄賂たる性質が失われるものということはできない

と判示し、記念品料として公然と提供されたものであっても、職務行為に対する謝礼の趣旨であれば賄賂に該当するとしました。

福岡高裁判決(昭和41年6月7日)

 裁判所は、

  • 社交的儀礼にすぎないものかどうかは、社会通念によるしかないが、公務員の服務の公正と品位を害し法秩序と官紀の棄乱にわたる性質の行為は違法性を具備し、賄賂に該当する

と判示しました。

福岡高裁判決(昭和33年10月10日)

 裁判所は、

  • 慰安旅行等の経費に充てるため寄付を求めた行為について、職務上の知合いにすぎず、個人的に歳暮中元等を贈る関係になかったし、また寄付としての各種手続が採られていないとして賄賂の授受に当たる

としました。

東京地裁判決(昭和33年7月1日)

 裁判所は、海外出張の餞別として金銭の贈与を受けた行為について、

  • 職務上の知合いにすぎず、深い個人的関係も認められず、賄賂の授受に当たる

としました。

東京地裁判決(昭和33年9月29日)

 裁判所は、海外出張の餞別として現金30万円の贈与を受けた行為について、

  • 職務行為を離れた深い個人的交際もなく、またその額も他の餞別と比較して社会観念上是認される儀礼的餞別の範囲を超えたものとしたものである

としました。

福岡高裁判決(昭和41年6月7日)

 裁判所は、助役及び収入役の就任披露として議員を就任披露宴に招待し、土産代として現金1万円を交付した行為について、

  • 公的な立場の間柄しかなく、額も高額であり、過去にそのような慣例があったとも認められないし、公務出張の途中であるので交通費を提供する必要もないことからすれば、社交的儀礼としての社会通念を超えたものである

としました。

東京地裁判決(昭和56年3月10日)

 裁判所は、公開株式の割当てについて、

  • これが歳暮中元等と同種に社交的儀礼として一般に慣習的に承認されたものではなく、また、自己の本名が出ないように他人名義で割当てを受けていたことからすれば、社会一般に承認されているものではないと知っていたと認められる

として、弁護人の社交的儀礼の主張を排斥しました。

大阪高裁判決(昭和60年2月19日)

 裁判所は、時価1万7000円のフランス製ブランデイ「ナポレオン」1本の授受について、

  • 社会的儀礼として許容される範囲内にとどまるとは認め難い

としました。

仙台高裁判決(平成5年3月15日)

 裁判所は、市長選挙立候補者に対して陣中見舞いとして現金300万円を交付した行為について、社交的儀礼の範囲内の政治献金であるとした主張を排斥しました。

東京地裁判決(平成10年6月24日)

 裁判所は、海外視察旅行の餞別金として20万円ないし30万円を受領した行為について、

  • 社交的儀礼の範囲内にあるなどといえない

としました。

 なお、この判決は、社交的儀礼の範囲にあるとはいえないとして理由として、

  • 社会一般から見て職務の公正さを疑わしめる性質のものであるかどうか

という点を強調し、他人名義を使用したことが当該行為の性質として公正さを疑わしめるものであることを示すとして、

  • 形態を重視

し、社交的儀礼の問題を社会的相当行為の範疇に含めて判断する考え方を示している点が注目されます。

大阪地裁判決(平成14年9月30日)

 裁判所は、医科大学教授に月々10万円の28回にわたる振込み及び現金50万円を供与した行為について、

  • 高額で、社交的儀礼の範囲を明らかに逸脱している

としました。

② 社交的儀礼の範囲内にあるとして賄賂性が否定された判例・裁判例

 社交的儀礼の範囲内にあるとして賄賂性を否定した判例・裁判例は、その理由として、

  • 職務外の交際
  • 具体的な職務行為との関連性が明確に認められないこと

を挙げるものが多いです。

最高裁判決(昭和50年4月24日)

 教師に対する生徒の保護者からの供与について社交的儀礼の範囲にあり、賄賂に該当しないとする判断をした判決です。

 裁判所は、

  • 被告人の教諭としての公的職務に関し、これに対してなされたものであると断定するには、なお合理的な疑いの存することを払拭することができず、右二件の供与は、被告人の職務行為を離れた、むしろ私的な学習上生活上の指導に対する感謝の趣旨と、被告人に対する敬慕の念に発する儀礼の趣旨に出たものではないかと思われる余地があると言わなくてはならない

と判示しました。

札幌高裁判決(昭和27年11月18日)

 裁判所は、同郷人(同じ故郷の出身の人)の間の贈与について、

  • 同郷人間の親睦に基づくもので、純然たる社交的儀礼である

としました。

東京地裁判決(昭和32年4月8日)

 裁判所は、海外旅行の餞別として現金3万円の贈与を受けた行為について、

  • 継続的な交際関係があり、また、特に公務員側において、特段便宜を図ってやったこともないことからすれば、社交的儀礼の範囲内の行為を認められる

としました。

東京地裁判決(昭和34年1月19日)

 裁判所は、病気見舞として現金5万円を提供した行為について、

  • 選挙に際し個人的に応援したり、家庭的にも相互に贈答品をやりとりするほど親密であったこと等からすれば、社会通念上当を失したものとはいえない

としました。

次の記事へ

贈収賄罪の記事一覧